夏目漱石「一夜」

青空文庫に掲載されています.

夏目漱石「一夜」(1905)

男二人と女一人が宿を共にして,夜遅くまで夢の中のような語りあいをします.その時の雰囲気つくりの音に琴と尺八が使われています.

「夢にすれば、すぐに活(い)きる」と例の髯が無造作(むぞうさ)に答える。「どうして?」「わしのはこうじゃ」と語り出そうとする時、蚊遣火(かやりび)が消えて、暗きに潜(ひそ)めるがつと出でて頸筋(くびすじ)にあたりをちくと刺す。
「灰が湿(しめ)っているのか知らん」と女が蚊遣筒を引き寄せて蓋(ふた)をとると、赤い絹糸で括(くく)りつけた蚊遣灰が燻(いぶ)りながらふらふらと 揺れる。東隣で琴(こと)と尺八を合せる音が紫陽花(あじさい)の茂みを洩(も)れて手にとるように聞え出す。すかして見ると明け放ちたる座敷の灯(ひ) さえちらちら見える。「どうかな」と一人が云うと「人並じゃ」と一人が答える。女ばかりは黙っている。
「わしのはこうじゃ」と話しがまた元へ返る。火をつけ直した蚊遣の煙が、筒に穿(うが)てる三つの穴を洩れて三つの煙となる。

| | コメント (0)

岸田國士の書評:米川正夫著「酒・音楽・思出」

「青空文庫」に掲載されています.


米川正夫(1891 - 1965)は著名なロシア文学者です.これは米川氏の回想録の書評です.米川氏は筝曲家一族の一人で,箏の演奏も相当のものだったそうです.


次には音楽に関する随想が並んでゐる。
「十六の年から今日まで、まづ琴を手始めに三絃、尺八、謡、小鼓といふ順に手がけて来た」といひ「それもちよつと門口をのぞいて見たといふ程度でなく、かなりなところまで深入りしたものである」
と氏の謙遜癖にも似合はぬ口ぶりで察せられる通りに、そのうちあるものは家元の直系を伝へてゐるとは驚くべきことである。
 私も、或る日招かれて公の席における氏の演奏ぶりを「拝見」したことがあるが、実のところ、私の耳はこの古典的な邦楽器の音色を聴き分ける能力はなかつ たのである。たゞ、内田百間氏との合奏が殊にこの「桑原会」の呼び物らしいので、講堂の聴衆と共に私も小鼻に力を入れて舞台を凝視してゐたにすぎない。
 ところがこれらの随筆を読んで、私は実のところ氏の音楽的天分と薀蓄とに更めて敬意を表せざるを得なくなつたことを告白する。


| | コメント (0)

永井荷風「荷風戰後日歴 第一」

「青空文庫」に掲載されています.

永井荷風の日記です.

昭和廿一年

三月十四日。
晴。
[中略]その頃店[注:神田今川小路の筆匠玉川堂]の裏手に小庭を前にせし貸席ありて折々俳諧謠曲の會などの催しをなすものありき。余は荒木竹翁につきて琴古流の尺八を學びゐたれば翁父子及び門下の人々と一二度さらひの會に赴きしこともありしなり。[後略]

| | コメント (0)

鈴木治助(對山)(1892)「尺八指南」

鈴木治助(對山)(1892)「尺八指南」金城堂

国立国会図書館で公開されている尺八関係文献です.
(文化庁長官裁定による公開)

Suzuki01l  Suzuki02l_2

京都明暗教会の初代看首鈴木對山の尺八教科書です.京都明暗寺が再興されてから間もないころに出版された譜本です.鈴木對山は尺八の普及を目指して,明暗尺八を念頭に置きながらも,俗曲による尺八の入門を考えたようです.

鈴木對山は名古屋で,西園流に伝えられた浜松の普大寺の明暗尺八曲を習得し,その後上洛して京都明暗寺を再興しました.そんな縁があったのか,この本は名古屋の出版社から出版されています.

最初の譜として,「唱歌」として「君が代」の譜が掲載されています.ロから始まる譜ですが,そうであれば「ツ」はメリ音となるはず(正確には「中メリ」)ですが,そのような注記はありません.その他の譜にもメリ音記述はありません.



鴨川の千鳥の聲百さとの糸の音みな音聲として人のこゝろを樂しませさるはなし幽棲閑雅なる深山邊の谷間に水音に松吹風をとりませてそら焚の烟の中笙しちりき七絃をかならしぬる樂しみいと高尚なるわざなることいふまてもなきことぞかし位高き人皆このわざを好みつるかいな\/髙妙なるわざ味ひをしるさへむつかしまして朝ゆふ己かなりわいにつとめいとまなきみの此わざをしり樂み得へきや俗きわまると笑ふ人三味線のいとおもしろさに命の洗たくをなし白がの親父も大津繪をしらぬはなく權兵衛種を蒔ながら口ずささむはやり歌おさん米かす水を汲つゝうとふいよぶしなか\/にもしろし孔子もこれを捨給はす高きにのほるには底きより遠きに行には近きよりてふ聖人の教によるとにはあらねとも誰もしる歌かきあつめ吹そゆる笛の一ふしかきつけて尺八をもてあそふ人のたつきにと櫻木にほりぬこれを見て笑ふ人は人に笑はるゝ人と笑つゝすゞきうじにかわりてかき記すものは

                                       浮名の華○竹





洞■[ショウ](尺八)は和漢共に往古より有來れるものなり頗る高尚なる樂器にして精神を閑静にし心中の就癪を去り悟道の一器たり。故に古來普他[ママ]宗にては本手と云へる一種不可思議の曲を傳へ琴歌地歌の如きものさへ賤みて調ふることを許さゝりし然るを此冊子の如き戯曲を著はすは此道の本意に非さるも近日尺八の流行日を追て盛んなれども尺八は志野草笛と違ひ其音を出すことむつかしけれはしはらくは獨習をなすも此笛を學ふの早道なりさろとたゞ音をさするのみにてはおもしろからずさりとて高尚なる譜をしるしたくも初近の及はざることなり故に兒童が口すさむ卑近の俗曲をしるし深山路に入る枝折にせんとす順次號を追て黒髪、春雨、小すの戸、ゆき、袖の露、あしかり、あか月、竹生島、王照君、六段みだれ、古今の四季、三夜、しづ、戀慕、霧海路、虚せい、など著し此笛の六音六調に合ひ古樂に合するのしらべ又ヲルガンピヤノハイヲリンに合すと此笛の來歴秘訣等かきしるし出版すべし諸君此巻の号を追て大尾に至るを待て此評あらんことを冀ふ

                                            鈴木對山

| | コメント (0)

弦間耕一(2013)「<改訂>甲州の虚無僧 聖と俗の世界」

山梨県笛吹市の郷土史家弦間耕一氏が乙黒明暗寺について一冊の本をまとめられました.
この本に資料を提供された葛山幻海氏からご紹介いただき,早速入手しました.
今年の4月30日に発行されたばかりの本です.

まだ,ななめ読み程度で,詳しくまだ読んでいないものの,乙黒明暗寺にかかわる具体的な人の動きが記述されていることは,さすが地元の郷土史家と感心しました.また,虚無僧の歴史についても,予断なく,これまでの研究成果を踏まえておられて,良いことと思いました.

購入は葛山幻海氏の以下のHPからできることになっています.
  葛山氏HP:購入用ページ

虚無僧の歴史に興味のある方はどうぞ.

01_2

弦間耕一(2013)「<改訂>甲州の虚無僧 聖と俗の世界」甲斐郷土史教育研究会

一 普化宗の変遷
二 普化宗の尺八
三 普化宗の本則(教義)免許
四 普化宗寺院の編成
五 掟書
六 虚無僧の人々
七 虚無僧をめぐる騒動
八 乙黒村明暗寺留場・取締場
九 乙黒村「宗門人別改帳」
十 明暗寺と新宿法身寺
十一 合鑑
十二 補足 資料

| | コメント (0)

野口米次郎(1947)「春信」

国立国会図書館で公開されている資料です.

野口米次郎「春信」
1947年 京都印書館
(著作権保護期間満了)

Noguchi11
鈴木春信(1725~1770)は江戸時代中期の浮世絵師

この本は1947年という,終戦直後に発行された春信の画集です.掲載された浮世絵の一枚に女性が尺八を吹いているものがありました.

前後の浮世絵をみても,当時の風俗を写したというよりは,そうあったらいいなという絵なのではないかと思います.この女性の風体がわからないのですが,着物の種類や,髪型から身分や職業(?)などが推定できるでしょうか?

Noguchi02

| | コメント (0)

見てみたい古書

私に必要かどうかわかりませんが,見てみたい本のリストです.
整理はできていませんし,網羅しているかどうかも分かりません.
たぶん,もっとありますが,とりあえず今のところのリストです.
重複もありますが,その確認もしていません.

小川儀蔵    (1891)    尺八独稽古、   
金城堂        (1892)    尺八指南、金城堂
青木嵩山堂    (1893)    独習尺八楽譜唱歌集、青木嵩山堂
横江慶次郎    (1893)    尺八曲譜集、   
上田捨吉    (1893)    尺八独稽古、   
野田勝次    (1894)    尺八手引草、   
矢島誠進堂    (1895)    尺八独案内、矢島誠進堂
岩津庄兵衛    (1897)    一閑流尺八本曲独習解、愛知堂、
矢島誠進堂    (1898)    尺八雑曲集、矢島誠進堂
岡本偉業館    (1898)    尺八独稽古、岡本偉業館
竹声会        (1903)    尺八之栞、竹声会
竹琳軒        (1908)    尺八音譜解説、竹琳軒
津田峰子    (1909)    明笛尺八独習、修学堂、
林盛林堂    (1909)    尺八独習自在、林盛林堂
永田栄一    (1910)    尺八音譜解説、
明誠館        (1910)    尺八独習初歩、明誠館
井上一書堂    (1910)    新曲尺八独奏、井上一書堂
野田桂華    (1910)    尺八独稽古、立川文明堂〔ほか〕、
松風会尺八指南所(1910)    松風会尺八音譜、松風会尺八指南所
吉村敦        (1911)    琴古流尺八音譜、共益商社、
鎗田倉之助等    (1911)    琴古流尺八外曲楽譜、天香閣書房、
琴古流尺八研究会(1911)    琴古流尺八楽譜(第1~9集)、琴古流尺八研究会
銀杏楽会尺八研究所    (1911)    琴古流尺八新曲音譜、銀杏楽会尺八研究所
松風会        (1911)    孤山流尺八入門、松風会
東京尺八講習会    (1911)    尺八音譜集、東京尺八講習会
東京尺八講習会    (1911)    尺八音譜集(第3編(雑曲集))、東京尺八講習会
若原孫四郎    (1911)    孤山流尺八音譜、   
琴古流尺八研究会(1911)    琴古流尺八楽譜(第1-9集)    、琴古流尺八研究会
東京尺八講習会    (1911)    尺八楽譜、東京尺八講習会
東京尺八講習会    (1911)    尺八音譜集、東京尺八講習会
松風会尺八指南所(1912)    孤山流尺八音譜、松風会尺八指南所
東京尺八講習会    (1912)    尺八独案内、東京尺八講習会
川瀬順輔等    (1912)    尺八曲譜、
関西音楽会    (1913)    尺八独奏、関西音楽会
極道酔人    (1913)    尺八雑曲集、   
極道粋人    (1913)    尺八音譜集(第1編)、   
水野郁道    (1913)    尺八早まなび、   
若原孤山    (1913)    孤山流尺八入門、   
若原孤山    (1913)    尺八音譜、   
町田桜園    (1914)    尺八独習、   
古海静湖    (1914)    尺八独案内、   
井関外雅    (1914)    尺八俗曲集、   
井関外雅    (1914)    尺八音譜(第4編ほか)、
安富美弥    (1915)    西園流尺八楽譜略解、   
普化教会    (1915)    尺八独習案内、普化教会
奥村恒夫    (1915)    尺八音譜俗曲(第2集)、   
安福美弥    (1915)    西園流尺八楽譜箏曲、   
木村如心    (1915)    琴古流尺八本曲の栞、   
石井如月    (1916)    尺八教本、
小林紫山    (1916)    明暗尺八解、   
若原孤山    (1916)    孤山流尺八音譜、   
竹風会        (1916)    竹風会尺八音譜(春の寿)、竹風会
尺八研究会    (1917)    尺八新式独習録、尺八研究会
鈴木霞山    (1917)    尺八独習案内(第2編)、   
甲賀夢仙    (1917)    尺八音譜横槌、   
栗原広太    (1918)    尺八史考、   
藤田俊一    (1919)    尺八通解、   
市村富久    (1919)    尺八小史、   
上田芳憧    (1919)    尺八講義(第1編)    、   
井関外雅    (1920)    外雅流尺八楽解説、   
宇田川孝童,尺八教授会    (1920)    琴古流尺八講義、尺八教授会
東京尺八研究会    (1921)    正則尺八吹奏講義録、東京尺八研究会
小林紫山    (1921)    尺八秘義、   
        (1921)    琴古流尺八楽譜集(生田流天之巻)    、   
高松信十郎    (1922)    尺八上田流史(第1巻)    、   
川瀬牧童    (1923)    正則尺八の学び方、   
上田芳憧    (1926)    上田流尺八手引、   
西野錦城    (1926)    尺八独習、   
沼崎鶴        (1926)    琴古流尺八講義録、   
大日本家庭音楽会(1926)    尺八講義録(第1編)、大日本家庭音楽会
大日本家庭音楽会(1926)    尺八講義録(第3編)、大日本家庭音楽会
内山嶺月    (1972)    錦風流尺八本曲伝―根笹派大音笹流    、   
富森虚山    (1975)    滝落―随想漫筆、
樋口対山、稲垣衣白    (1976)    樋口対山遺譜―明暗教会訳教    、   
勝浦正山、稲垣衣白、出井静山、高橋呂竹    (1977)    勝浦正山遺譜    、   
豊島正雄    (1978)    大本山国泰寺妙音会虚無僧尺八談議    、   
山本守秀    (1981)    虚鐸伝記国字解〈3巻〉    、   
谷北無竹、稲垣衣白    (1981)    明暗三十七世谷北無竹集―対山譜拾遺    、   
今井宏泉    (1984)    素浪人塚本竹甫―尺八に生き、酒を愛した男の生涯    、   

| | コメント (0)

安福呉山「西園流の始祖兼友西園

西園流を起こした兼友西園についての記事を見つけました.
1927年(昭和2年)に名古屋で発行された月刊文芸誌「紙魚(しみ)」の記事です.

安福呉山(遺稿)(1927)「西園流の始祖兼友西園」紙魚 第14冊

Shimi_s

筆者の没年が記載されていて,それによれば著作権が消滅していることが明らかですので,以下に書き写します.

 古來名古屋は藝所であり,又それだけに各方面に亘つて名人偉人を多く出してゐる。筝曲に於ける吉澤檢校の如き其天才的作曲は單に當時の斯界を風靡したるに止まらず,現在も名曲として全國に持て囃されて居る。古今千鳥の曲こを寺澤檢校の作曲である。
 琴と尺八は親類筋,その尺八にも又吉澤と併稱すべき名人を出して居る。兼友西園其人で,共に我中京の誇であり,永遠に邦樂史上に偉彩を放つものであると思ふ。
 氏は本名を兼友彌曾左衛門盛延と云つた。西園は號であつて盛延の音讀セイエンより來たものらしい。家は代々菅原町眠光院西隣に住し砥屋を業とした。淸州越二十七人衆の一人,千石船五艘の持主であつたと云ふから,可成の資産家に生れた譯であるが,物質に執着せず,終始尺八に一貫した氏の晩年は赤貧洗ふが如きものであつたと云ふ。
 其門下からは,明暗流創始者を以て鳴る樋口對山,内田紫山等の秀才を出してゐる。此人に依つて,現在の西園流は生れたもので,将來全國的に發展する可能性を持つて居る。
 幼少より尺八を好んだ氏は,遠州普大寺の虚無僧,梅山玉童の兩氏に就てより,其技大いに進み,遥に兩氏を凌駕したのと事で,習得した曲は本曲十一曲に過ぎなかつたけれども是に依つて得た知識は廣大なものであつた。當時,尺八と糸曲との合奏が完成されて居らぬ時代に,自信を以て,猛然合奏研究に精進し,後人の爲に其範を垂れたものである。一体に性質が恬淡無慾であり,頑固一徹である氏は無暗矢鱈にどの曲にも手附すると云ふのでなかつた爲,其曲數は少なかつたが,其半面に其手附は研究され洗練されたものであつた。
 氏の逸話は澤山あるが,其内一二を摘記すれば・・・・・現在榮町に巍々として聳え立つ十一屋呉服店に,懇望せられて養嗣子となつた幸運の位置青年兼友西園,不相變得意の尺八に浮身をやつして商賣には無關心,今日も朝から虚空の一曲に,尺八三昧,陶然と吹き終るや,鋭敏な彼の鼓膜を驚かしたものは隣室にさゝやく番頭の聲であつた。
「アア又尺八か・・・・・大商店の・嗣子ともあろふものが」と云ふ嘆息の聲である。氏は即日家出した・・・・・愛管を手にして・・・・・そして使者を以て再三復縁を迫られても斷然之に應ぜず,遂に尺八専門家として細き煙を立てるに至つたのである。
 老後,魚の棚などから,高貴の方々の招聘があつても應ぜず,家計等は一切無頓着で,妻女おこうさんの心勞も普通大低[ママ]ではなかつたらしい。米錢はもとより薄茶三匁買ふ事さ出來ぬ折にも,平然尺八を吹いてゐたとの事。
 明治二十八年三月二十一日,享年七十八を以て他界した法名を宮外韻商居士と云ふ。内田紫山,樋口孝道兩氏發起に依り大光院に碑を建立,後移されて今は東郊覺王山にある。

編集後記に記された筆者の安福呉山氏についての記述です.

安福呉山氏の西園流の始祖兼友西園の稿は早く頂いたのだが,別に計劃する所あり,今日までその機會を待つてゐたところ,氏は突然十月九日に永眠された。そしてこれが氏の遺稿となつた。氏は市内中區金澤町に住し師西園の流れを汲み尺八西園流の宗家として斯界に重きをなしてゐたが,年齒[ママ]わづかに三十八にしてこの訃に接した。哀悼の念に堪へない。

| | コメント (0)

暗流洞簫譜 露月調

前回の「暗流洞簫譜」について,ろめいさんからコメントをいただきました.フホウエ式の記述で,また明暗流を称しているのであれば,津野田露月の譜ではないかというものです.

そこで,紙が傷んでいて読めなかった表紙の一文字(「■月調」)をもう一度よく調べてみました.■の字の上の部分は「あめかんむり」で,これは明確です.下の部分がわからないのですが,本文の文字と比較してみると,本人の書き癖から判断して,右下の部分が「口(くち)」みたいに見えます.とすると,「■月調」は「露月調」である可能性が非常に高いと思われます.ここで「調」の文字が使われている意味が判りませんが,本文の文字との比較で「調」の文字であることに間違いはありません.

01

また,実は,この本の出所は熊本市です.

以上を勘案すると,津野田露月の譜と考えてほぼ間違いなさそうです.本人の筆写かどうかは本人と確定されている字と比較しなければ判断できませんが,この本の筆致が尺八譜の記述に非常に慣れたものですので,本人筆である可能性は高いと思います.

ということで,(マニアックな意味で)重要な譜本を入手してしまいました.

津野田露月は1875に生まれ1958年に熊本で没.岡本竹外(1999)「根笹派錦風流伝曲と越後明暗時秘曲など」に思い出話が書かれています.また私は確認していませんが,富森虚山「明暗尺八通解」にも記述があるようです.

| | コメント (0)

「明暗流洞簫譜 ■月調」(1924)

古書店でこの譜本を見つけて入手しました.

01s

毛筆での書写による折本の譜です.日付は「大正十三年五月」とあります.後半の半分は空白ですので,書写の途中だったかもしれませんが,日付があるところを見ると,これで書写の区切りだったのかもしれません.

譜はフホウエ式.16曲の譜が書かれていて,この内に本曲は「本手調子」「下り葉の曲」「歌戀慕」の三曲.これらの曲の由来は簡単にはわかりませんが,いずれ譜を読んで考えてみたいと思います.時代,記譜法,曲名,記譜された音など,いくつかのヒントはあります.

約90年前の本ですが,保存状態は良好.ただ,表紙に書かれた表題の一文字が削れていて読めません.上に記した■の字です.

筆写は非常な達筆で,しかも尺八譜の記譜にきわめて慣れた方の筆です.

書かれている譜は以下のとおりです.

本手調子
君が代
高い山
琴平船々
琉球節
下り葉の曲(本曲)
黒髪 三下り
鶴の聲 本調子
松盡し 二上り
六段 本調子
歌戀慕 (本曲)
末の契里 三下り
春雨 二上り
越後獅子 端唄 三下り
梅にも春 本調子
秋の夜 本調子

Choshi_s  Sagariha_s  Utarenbo_s

(著作権の消滅が不明なので一部のみの掲載にします)

| | コメント (1)

より以前の記事一覧