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小林紫山「明暗本曲尺八講義録 第一篇」

小林紫山(喜久雄)「明暗本曲尺八講義録 第一篇」
1927年(昭和2年)1月5日 小林喜久雄 (印刷:明暗根本道場)


国会図書館で公開されています(著作権保護期間満了)

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緒言
目次
  第一篇 本曲調子     第一章 尺八根本義
      心の調べ
      一曲千遍
      一管の天下
      大自然の音韻
      天地の正道
    第二章 吹奏要義
      呼吸法
      姿勢
      間拍子
      音符
      真行草の三體
      尺管の長短
    第三章 吹奏法
      第一吹奏法(本曲調子)
      第二吹奏法(吹起の運指)
      第三吹奏法(メリ音) 
      第四吹奏法(振り音)
      第五吹奏法(音韻の進行)


「緒言」に当時刊行されていた譜のリストが以下のように記載されています.現在のリストと同じと考えられますが,「奥州鈴慕」は現在は「奥州流」,「阿字」は現在「阿字曲」と呼ばれています.この「緒言」によればこれらの外に刊行を準備していた曲が「十餘曲」あったとされていますが,現在までに刊行されていません.

獨自の表示法を以て其の音譜を刊行叢表せり。其曲名を擧ぐれば
調子、一二三調、鉢返曲、瀧落曲、三谷曲、九州鈴慕、志圖曲、善哉曲、吾妻曲、筑紫鈴慕、奥州鈴慕、秋田曲、曙調、陸奥鈴慕、轉菅掻、打鼓曲、門開曲、戀慕流、深夜曲、鳳鐸、阿字、雲井曲、榮獅子、巣鶴、龍吟虚空、鳳叫虚空、虎嘯虚空、鹿遠音、鶴巣籠
の二十九曲にして、別に明暗三虚鈴の譜を蔵すれども、古傳の秘曲は其妙諦容易に觧し難きを以て、妄りに叢表することを避けたり。以上の外尚ほ研究中のもの十餘曲あり。

これらの曲について「真、行、草の三體」の項に,三種の分類が書かれています.

曲奏には真行草の三體があつて、奏曲も亦三體に包別される。即ち三虚鈴(虚鈴、虚空、霧海ジ)を以て明暗の真體となし、・・・行曲でも真曲に近いものは真曲の行體といひ、草曲でも行曲に近いものは行曲の草體といい得られるわけである。草體に至つては本曲の外曲とでもいふべきもの・・・


「音符」の項に甲音の吹き方が記されていますが,唇を細くせず,息を強く多く吹くとされていて,説明としてはやや不十分かと思います.

甲音を吹く時の方が自然に息の勢も強くせねばならんし、量も多きを要する。従つて唇は強い息の勢に引かれて自然に引締るものであつて、殊更唇を細くしたり、顎を抑へたりして、音を作るのは絶對に悪いことである。


「尺管の長短」の項に,一尺八寸管の演奏を標準とすると書かれています.ただし,それ以上の長管と比較して,一尺八寸管は音律が揃わないとされていて,この点は少々疑問があります.ただ,本書の範囲では「正しい」音律の説明はありません.一方,以下の引用のように,尺八管ごとのある程度の音律のずれは容認しているようです.また,尺八の演奏者に「全体が低調子、引調子の人が多い」と指摘してあり,これについてはそうかもしれないという印象をもっています.

尺八練習は必ず一尺八寸の管を用いるを常法としてゐる。 ・・・尚ほそれ[一尺九寸]以上の長管になるに従つて、一層音調は自然的で律の整ひもよく、息合も樂で最も味ひなところが得られるものである。・・・短管になると律が高いから音調が急激になり、長管に比べると音調の變化も幾分味ひに乏しい感じがする。

初心の間は尺八寸を吹いても尺九寸や二尺位の低い音律より出ぬもので、其孔の一つ々々にむらあがり、一の孔は高く出るが二の孔は均り合はぬ低い音となり調子が揃はぬといふやうなものである。相当な吹手であつても全体が低調子、引調子の人が多い。また時には均り合はぬ律の音が出ることもある。故に律はなるべく高く々々吹くやうに心掛けぬと尺八の真の律にかなふやうにはならぬのである。・・・連管或は合奏などをした時、そこに多少の音律の相違はあるが、各々異なつた個性によつて吹かれる以上は免れ得ないことであつて、尺八寸の音律の相違は尺八寸といふ一定の範囲内の相違であるから大体に於て大差はないと思ふてゐればよい。要するに尺八寸以上の長管であると調子の律がはづれるといふ憂は比較的少ないが、尺八寸は中々調子がとれにくゝはづれ易いものである。


メリの吹奏法が詳細に記述されています.メリの方法に三種が説明されていますが,メリ音も音量はカリ音と同じようなるように吹奏すると指摘されています.「調子」を例にして,具体的・詳細なメリの方法が記述されています.これを全体的にみると,メリ→大メリの方法として,ウについては(三)→(一),その他の音のメリは(二)→(一)とされているように思います.

メリとは滅入ることで、音韻が沈んで調子が低くなるわけである。顔を伏せ氣味にすると顎を引くやうになる。指を孔の上に翳すこともその一つ。これは指が竹管に添ふた儘孔の真上に指をあけるもの、・・・こゝに注意を要するのは、メリ音でも息は決してゆるめてはならぬ・・・息をゆるめさへしなければ自然と息の當りが強くなり、メリ音とはいへ音量は比較的大なるものである。
(一)顎も伏せ指も翳す。(二)指を翳す。(三)顎のみ伏せる。
右三樣のメリ音は、曲奏上の味ひや前後の音韻関係から顎や指の作用に高低深減も微妙な變化を要する・・・


明暗本曲の特徴のひとつに「振り」があります.これについては,以下のように顎を斜めに振る説明がされています.

「ゆり」といふのは前後左右へ滑らかにゆり動かすのであり、「振り」といふのはわかり易くいふと、顎を一旦右斜め下の方へおろして直ぐ反對に左斜め上の方へ上げる動作で、またいひかへると普通の調子を一旦、顎を右斜め下の方へメツて次に左斜め上の方へ元の調子にカリ上げるのである。

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コメント

私の見解です。間違っていれば失礼します。
小林紫山の実名は小林治道です。小林紫山(喜久雄)と表題にしていますが本名と勘違いします。小林喜久雄さんは息子さんだと理解しています。紫山看首を尊敬する明暗尺八奏者です。

投稿: 假谷燈玄 | 2019年7月31日 (水) 07時28分

假谷燈玄様

ご指摘のとおりです.すみません.修正しました.

投稿: Yatou | 2019年8月 3日 (土) 22時18分

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