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大日本家庭音樂會編纂「通信教授尺八講義録 第壹編,第貮編,第參編」

大日本家庭音樂會編纂「通信教授尺八講義録 第壹編,第貮編,第參編」
第壹編1914年(大正3年)7月1日初版 1920年(大正9年)8月10日改版第50版
第貮編1914年(大正3年)7月1日初版 1920年(大正9年)9月10日改版第55版
第參編1914年(大正3年)7月1日初版 1922年(大正11年)6月10日改版第60版


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大日本家庭音樂會は福岡市にありました.

第壹編
尺八の沿革」では以下のように記述しています.その起源を中国の洞簫とし,国内では聖徳太子が蘇幕遮の曲を吹いたという體源抄の記載が最も古く,その後は専ら武人に愛玩されたとし,また虚無僧は事情により身を忍ぶ者が方便として行っていたものと,伝統的な尺八観を記述しています.明治以降については,「維新後にをきましては所謂ホーカイ屋の樣なものが出まして哀れなるかな尺八も惰落書生に玩弄されましたので一時其品位が下りましたが然し近來に至り音樂の研究が真面目になりましたので其眞の價値を發揮する樣になつて來ました。されば現今に於きましても高位高官の人にて尺八の名人が澤山有ます。」と,当時の状況を反映した記述がさているようです.最後に「要するに尺八なる樂器は我國に於て種々詩的なる歴史を有し且日本人の趣味に最も適合したる樂器であります。」と基本的な認識を述べています.

尺八音の特長」では,尺八音の特長は「節の『コロガシ』であります。」とし,「尺八を以て追分等を吹奏することは各流派における先生達の多くは之を非難してをる樣ですが・・・[中略]・・・日本曲、特に節の『コロガシ』を主體とする曲を吹奏するは尺八を以て最も適當とし且それが又尺八の特長であります」と述べています.

尺八は「普通一尺八寸を最も適當」としています.そして,一尺八寸管の筒音を壹越とし,西洋音譜の「7[=シ]」に当てています.この「西洋音譜」とは音階で,音律ではないようです.

第貮編
メリについては「『メリ』とは『沈』とも書きまして腮を内方に引き込めて吹く事であり・・・手指の穴を變更せずして・・・一律低き音を出す事が出来ます.但此様にメツて出す音は・・・弱く且陰氣な音になります.」,またカリについては「『カリ』とは『浮』とも書きまして・・・腮を少しく前方に突き出して吹くことであり・・・手指の穴を變更せずして・・・一律高き音を出す事が出来ます.但此様に『カツ』て出す音は・・・強く且陽氣な音になります.」と記しています.

指メリについては,「或穴を半月形に開いて吹きますと・・・一律低くなります.こんなにする事を『半月』と申します」と記しています.また「此の二つ[『メル』と『半月』]を同時になすときは二律低くする事が出來る道理であります」と加えています.さらに「『メル』も亦『半月』となすも・・・弱く陰氣な音になります・・・それで開放音より一律低音とする時でも『メリ』と『半月』と兩方をなして吹き其代り『メリ』の方も少くなくし又半月の方も成べく大きくします、かくしますと稍や鳴りよくもなり音も大となります」とし,メリ音での音色の変化は避けようとしています.

第參編
本編は曲の演奏法の解説です.また第四編から第七編までの予告も掲載されますが,いずれも曲の演奏法の解説になるようです.このうち第七編は本曲で,琴古流本曲が取り上げられています.
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各編の巻末には楽譜の出版目録が掲載され,大日本家庭音楽会の本曲の他,地唄・筝曲の一連の楽譜が紹介されています.また販売している尺八目録も掲載されていて,1円から50円の範囲です.また,調子笛の使用が薦められていて,乙音用および甲音用が共に1円80銭です.

第壹編
第一章 總論
 第一 尺八の沿革
第二 尺八音の特徴
 第三 尺八に於ける各流派
第二章 尺八に關する樂典大要
 第一 音とは何か
 第二 音の高低
 第三 音名
 第四 尺八音譜の説明
 第五 長さ異なる尺八の音律比較
 第六 拍子獨習法
 第七 尺八に於ける拍子記號
第三章 尺八吹奏法
 第一 尺八の取扱法
 第二 尺八の消毒法
 第三 説明付姿勢圖
 第四 尺八の發音法
 第五 如何にせば美音を發するか?
第四章 基礎音の練習曲
 ◎本練習曲の目的
 第一 開放音の練習曲

第貮編
第二節 「メリ」「カリ」音の説明
◎半月の説明
第三節「ツ」の「中メリ」音の練習曲
第四節「ツ」の大メリ及「ウ」と「チ」の「メリ」音の練習曲
第五節 リの「大メリ」音の練習曲
第五節「ロ」の「メリ」音の練習曲
[質問と回答]
第六章 尺八曲譜
(イ)琴曲に於ける音の「ユリ」方に就いて
(ロ)端歌に於ける音の「ユリ」に就いて
◎節の「コロガシ」及之に伴ふ特種手法の説明

第參編
◎追分節に就て
◎追分節の特種手法
◎六段に就て
◎「ナヤシ」の吹き方
◎美音の極意及如何にせば見事に吹奏し得るや

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村治虚憧(邦一)(1928, 1934)「尺八讀本 附独習用楽譜 改訂増補三版」

村治虚憧(邦一)「尺八讀本 附独習用楽譜 改訂増補三版」
1928年(昭和3年)7月15日初版,1934年(昭和9年)12月15日三版
千代美會宗家

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大阪で出版された尺八の初心者用教則本です.掲載されている譜は初心者用ですが,前半の解説は簡潔ながらもそれまでの教則本や解説本にみられないような詳細で正確な記述がされています.

使用する尺八については「尺八は普通一尺八寸のものを用ひる。」と明記されています.

五孔と指」の項には次のような記述があります.「半音」について,「半音と呼び俗に[指孔を]半開にするといふも實際は孔(こう)面積の約五分の一程開けて沈(めり)て吹くのである、開けるのは孔の下部に限る」と実際の吹奏法にもとづき正確に記述されています.また「中沈(ちゅうめり)」について,「普通翳(かざし)指を使ふ」とも記述されています.「甲乙」について,「甲(かん)音とは高音の事にて息を強く細く吹く 乙音とは低音の事にて息を弱く太く吹く」と,ここでも正確な記述です.「沈(めり)浮(かり)」の項では「沈とは顎を少し内に引入れて吹く、其音弱く陰氣の性質を帯び律が低くなる、即ちメイルの義。浮とは顎を少し前方(まへ)へ突出して吹く、其音大きく陽氣の性質を帯び律が高くなる即ちハリアゲルの義。」と,それまでに見られないほど詳細で正確です.音名は琴古流式が基本になっています.

拍子符號」の説明では,一部五線譜での説明があります.ただしその後の拍子の説明は伝統的な「間拍子」の説明になっています.譜が縦書きの記号譜なのでこのようになるのでしょう.

各楽譜には冒頭に「速度記号」が記されています.これについて「最緩」から「」まで6段階の速度指示になっていて,その他,「徐々速」,「漸次速」,「倍速」等の5種の速度変化も用意されています.このような速度指示もそれまでの類書に例がありません.

音律」として,尺八の音域を「二オクターブ四音」としていて,現代の尺八とほぼ同じです.「オクターブ」の語が使われています.一尺八寸の尺八の筒音が「壹越」と明記され,これについて「292.7振動」と記述しています.そして,これは「支那の黄鐘、洋樂のD、俗稱の六本、等と同じである」としています.この「日本正律振動數」は「明治八年英國博覧會へ日本から出品した雅樂十二律の音叉を英國人エリスが測定したもの」だそうです.ちなみに本書では一尺八寸の尺八の筒音に対応する洋樂の音のDの振動数が290.327,Aが435.000になっています.

「旋律」の項では音階が説明され,「邦樂」では「都節旋法」と「田舎節旋法」が記述されています.「洋樂」では「平均律」の考え方が紹介され,レ(本書では「2」)にロを当てる方法と,ラ(本書では「6」)にロを当てる方法が記されています.

本書の末尾には楽譜のカタログが掲載されていて,その範囲は千代美會の本曲の他,民謡・小唄・流行歌,映画伴奏,義太夫,洋曲,地唄・筝曲,筑前琵琶,長唄,吉備樂と多岐にわたっています.


自 序
 五孔の一管良く萬象を寫しよく喜怒哀樂の情を述ぶる、尺八は由來高尚優雅なる男性的樂器として我が大和民族の誇りとする所。
月の夕、花の朝の手すさびに吹き鳴す竹の音は如何に床しき事なれ。
もし夫れステージに百千の聽衆を迎へ、ラジオに幾十萬のフアンを魅了する自他一体の藝術境を現出せんか其の快挙やたとふるにものなし。
今や我が研究はあらゆる旋律を尺八化して終には洋樂にも進出したり。
最も新しき然して最も趣味豐かなる尺八吹奏を研究せんが爲近時我が千代美會尺八を望むの士頓[とみ]に激増せり。
千里の道も一歩より始まる。
尺八の入門を志す士は先ず本書に依りてその大要を知るべし。
本書は尺八入門の手引書たると共に一代の寶典たらん事にも努めたる爲初學者には難解とおもはるゝ箇所も出來たれど讀者は必要に應じ解る部分より少しづつ覺えて利用する樣せられたし。
獨習者にも今直接教授を受けつゝある人にも本書は良顧問たるべし。
再版刊行に當り一言もつて序となす
   昭和六年三月
        浪速島之内の寓居にて
                      著者識


自序
尺八と歌口の圖
尺八
姿勢
吹方
五孔と指
普通音譜
甲乙
沈浮
對照拍子符號表
對照休止符號表
拍子
拍法
速度記號
復音運指法
間拍子圖解
音律表(其一)
音律表味方
音律表(其二)
音律表(其三)
旋律
 都節旋法
 旋法の上行と下行  都節と低音
 七種旋法
 田舎節旋法
 洋樂
諸種の記號
手法略解
表情記號の使ひ方

樂譜之部
 基本練習
 独習用樂譜
   螢の光,太湖船,風車,花咲爺,推量節,新磯節,ベニスの唄,ハトポッポ,桃太郎,
   深川くずし,間違や節,兎と龜,數へ唄,箱根の山,びんのほつれ,京名所,月,荒城の月,
   カチューシャ,美しき天然
附録
 虚憧作曲本曲解説
千代美會尺八樂譜總目録

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音曲倶樂部(三輪眞一)編(1906,1915)「尺八獨習」

音曲倶樂部(三輪眞一)編「尺八獨習」
1906年(明治39年)6月15日初版 1915年(大正4年)6月13日14版
聚榮堂大川屋書店


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緒言を読むと,初版が出版された明治後期にはまだ江戸時代末期の尺八の言い伝えが残っていたのかと思われます.国内に「音楽」なるものが広がるにつれその中で尺八も広まったとのことです.著者(編者)についての緒言の記述が正確であれば,著者(編者)は洋楽器の素養があったものの尺八には詳しくなかったところ,洋楽の知識で尺八譜の作曲をしたようです.

緒 言
昔は、侠客の腰に挿されて、喧嘩の花の咲きつるとき、主として飛び出せる任務を帯びたりし尺八も、治まる明治の御代と共に、錦の袋ならねども、深くひめ置かれけるが、音樂てふものゝ世に廣がりしより尺八も亦、世に持てはやさるゝに至りしこをうれしけれ。予は、嘗て泰西の樂器に就いて聊[いささ]か修むる所ありしが、尺八に就いては、深く知らざりき。こたび、聚楽堂出版社より、尺八獨案内を著せとのこと、深く辭したれども聴かれず、依て茲に本編を著はしぬ。月明の夜、一管を取つて、月に向はゞ、其の快、果して如何、一言以て巻首に書す。
   明治三十八年八月
                  作曲者しるす


楽譜の前に記述されている演奏法の解説は少々難解です.

尺八吹奏法」に肺の強弱に関係して「音調の高低」の説明がありますが,「一定の調律あるもの[=尺八]なれば、・・・調律に於いては敢て異ならざる」とのことですので,この「音調の高低」は「音の強弱」の意味と思われます.

尺八吹奏法
尺八は、西洋樂器に於けるが如く、器械的のものにあらず。故に吹奏者の肺の強弱、換言すれば、音聲の強弱に依りて、その音調に高低あるは、勢免るべからざる所のものなり。故に強肺者の吹奏するときは、其の音調は、自から高きも、弱肺者の吹くときは、自から低調となるものなり。然れども、一定の調律あるものなれば、其の音調の高低を生ずるのみにして、調律に於いては敢て異ならざるや論なし。
[以下略]


音譜」の項の説明には困りました.現時点では理解できていません.「表孔の數の二倍、即ち八種を以て、其の原音となし」とありますが,四孔を使い,全閉から全開までなら四孔で五種の音が出るはずです.孔の数を2倍する意味も不明ですが,各孔をひとつずつ開閉するという計算でしょうか? リコーダーでもそのような指使いはありません.また,「これを高音、中音、低音の三種に別ちて、二十四音となせる」とありますが,高音,中音,低音とは何でしょうか? 一方,「此の二十四音は・・・尚ほ此の以上にも吹き分くることを得るは自在なるが如し。」と書かれていますから,指孔の開閉以外に半開,またはいわゆるメリ・カリが想定されている様に思われます.ここまでの説明にもとづいて孔の開閉の図が示されています.この図では孔の開閉を横に示し,縦の漢数字は音名のはず・・・ですが,良く判りません.尺八の図も示されていますが,裏孔の位置が実際と異なっていることを別にしても,表孔では各音名につき孔ごとに開閉の指示があり,裏孔については開-高,塞-低とされています.孔の開閉図と尺八の図との対照関係も良く判りません.

音譜
元來尺八の音律は、殆ど一定したるものなしといふも誣言[ふげん]にあらずとは、某音樂大家の説なり。其説の當否は、予未だ不幸にして、之を究むることを得ずといへども、古來斯道の名家の遺書當を閲するに表孔の數の二倍、即ち八種を以て、其の原音となし、これを高音、中音、低音の三種に別ちて、二十四音となせるものゝ如し。然れども、此の二十四音は、絶對に動かすべからざるものにあらずして、吹奏者の如何に依りては、尚ほ此の以上にも吹き分くることを得るは自在なるが如し。而して此の二十四音は、いづれも皆裏孔に大なる關係を有するものにして、其の開閉のために、斯く種々なる音の發生するものなれば、裏孔の忽[ゆるがせ]にすべからざるや、固より論ずるまでもなかるべし。即ち表孔の開閉と裏孔の開閉とに依りて、斯くの如くなるものと謂ふべきなり。而して今假に二十四音として其の音調を示せば左の如し。
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以上示す所のものは、古來名家の遺書等に往々散見するところのものなれども、却て見易からざらんと思はるれば、左に圖説して、其の如何を示さん。
Miwa05
即ち以上のごとくにして、高音を發せんとするときは、呼吸を強くし、低音に出さんと欲するときは、呼吸を弱くして且つ輕く吹き入るべし。而して中音はその中間適宜の呼吸を用ゐて吹き入るゝものとす。[以下略]

なお,本書の後半に掲載されている楽譜をみたところ,「君が代」では尺八譜は「五四五三|六四五五|五四四六七|五五六七五|・・・」とされ,メロディーそのものではなく対旋律のような伴奏旋律になっているように思われます.このため残念ながらこの譜を利用して前項の指使いを理解することはできませんでした.

まさか,私たちが使っている尺八とは別の尺八かもしれないとまで思いましたが,表紙の尺八は裏孔は見えないものの全体的には私たちの尺八と同じもののように見えます.


「音階」の項には長い説明があります.この説明によればここの「音階」は音の長さの意味です.

音階
音階とは、音の長短なり。即ち音調の段階にして、吹奏するに當りて、これが音聲の長短をな、以て其の音調を整正ならしむるところのものなり。
[以下略]


本書の後半は楽譜集です.「俗曲」と「唱歌」に区分されていますが,「俗曲」の中には筝曲と地唄が入っています.
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