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尺八研究会(1917)「速成自在 尺八新式獨習録」

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尺八研究会「速成自在 尺八新式獨習録」
1917年(大正6年)11月2日 尺八研究會
Kenkyukai01  Kenkyukai02
本書は尺八の初心者向けの講義録の形をとっていて,それまでの他書に見られないような詳しい説明が書かれています.

尺八の故事來歴
由來」:尺八の起源・伝来については通説に従った説明がされますが,虚無僧については「所謂虚無僧(きよむそう)(是についても諸説がある)と呼ぶのは是が爲めに明治に入つてから物貰(ものもらい)の徒が尺八を利用して俗耳に入(い)り易い歌曲を吹奏しながら門づけして體(てい)よく一文(もん)の合力をせがむ樣になつた位である。」と記述しています.また国内の尺八については,「尺八は古く志那から傳來し一方には法器として僧侶(そうろ)間に傳へられ一方には樂器として中流以上の士人に好愛されて,今日に至つたものである.何故法器として用ひらるゝに至つたかは明瞭でないけれども,或(あるひ)は何(い)づれ其始めは,比較的学問があつて俗事に追はれない僧侶(そうりよ)によつて創始されて,其爲めに法器として使用せられたのであるか,或(あるひ)は往昔(むかし)日本から志那へ渡つた者の多くは僧侶(そうりよ)であつた爲に,本來普通の樂器であつた尺八も,其等(これら)の手によつて傳へられ同時に利巧[1字欠:「な」?]僧侶の事であるから,彼等のために布教の方便として利用されたものであらふ」と記述しています.
異筝及び種類」:洞簫について,「古來洞簫と稱するものとは同物であるか,將(ま)た別物であるかは頗る曖昧である」として尺八との区別を判断していません.また当時の尺八の長さについては「一般に關東主に東京を中心としては長さ一尺八寸(一と口に八寸とも呼ぶ)のを用ひ,關西並びに,九州地方(特に熊本は昔から盛な所であるでは長さ一尺九寸とも呼ぶ)のが愛用されている・・[中略]・・此他二尺[字欠?:「,」]一尺七寸なども用ひられておるが尺八は長くなる程其音調は優雅であり太くなるほど豪壮の咸(かん)がする」と説明しています.尺八の音程については「一越(えつ)ある,名稱の調子は一尺八寸の尺八の全孔を塞ぎたる時の音則ち筒音(かんおん)に相當する」,「然し是は厳正なる意味のものではなく實際に於ては上無[「一越」のひとつ(約半音)下の音]の調子は一尺九寸(くすん)強,斷金[「一越」のひとつ(約半音)上の音]の調子は一尺七寸弱でなければならぬ」と記述しています.

尺八の流儀
当時の尺八の流派の状況について「現時勢力のあるものは明暗流,琴古流,都山(とやま)流の三流であらふ」とし,この他の流派について「此他獨創の見地に立つて天狗の鼻を握つた樣に尺八の尻を突出し,滿腔の熱情を縷々として吹流(すいりう)す,我流は枚擧に暇めらずといふ程である」としています.

尺八の造り方
ここでの説明の中で,当時の尺八を知る上で参考になる記述を列挙します.
尺八の事を唯「竹(たけ)」と呼ぶ習慣もある。」:尺八を「竹」と呼ぶ習慣は思ったより古くからあるようです.
「[尺八の]竹の太さは管の上部に於て周囲大凡(おおよそ)四寸乃至三寸,從つて管の内腔は直徑凡そ八分乃至六分」:これによると推奨されている内径は1.8から2.4cmで,概ね現在のものと同等だろうと思います.ただし,かなりの広い範囲のものがあったようです.節の数については,見栄えの観点から述べられています.
孔の位置については,「[孔の位置]を定めるには種々の標準がある.就中解(わか)り易い一般に用らるゝ方法は竹全體の長さを,十九等分し,下方からその四巾目(はゞめ)と五巾目との境を「一の孔」の中心とし,是より順に一巾宛(づゝ)上方に測(はか)りて各部の境目を孔の中心として「四の孔」迄を定め,「四の孔」より十九等分の一に相當するを巾を更に情報に測り,其末端の正裏に相當する點を「五の孔」の中心とするのである,けれども實際に於て裏孔は是より稍々上り,「三の孔」は稍々下り目に穿(ほ)つた方がよい樣である,また三の孔を他の孔よりも心持ち小さく穿(ほ)る法もあるが一般に孔の大きさは同じく大凡直徑三分乃至三分五厘位である,孔は初めより完全に拵(こしら)え上げず心持小さい穴を穿り置き,音律を吟味しつゝ仕上げるがよい」として,音律に合わせた孔の位置と大きさの調整にまで言及があります.
このほか,「近來携帯上の便を謀つて「三の孔」と「四の孔」との中間で裁断(おりた)つて二本とし吹奏に當つて接ぐ樣にしたものが多い」「樂器店に販賣してゐる者は長さ壹尺八寸■[ならび]に壹尺九寸のものが多く」との記述もあります.

尺八曲の種類
次のような記述で始まり,当時の流行が判ります.「一般に門外漢は尺八と云へば直ぐに巣籠か追分節を聯想するのが常である・・・[中略]・・・然るに古來巣籠は本曲中の異彩あるものとせられ,追分節は外曲中の妙曲として人口に膾炙せられてゐたからである。」.これに続き以下の説明が続きます.「外曲中で最も尺八に適するものは筝(しよう)と俗曲の一部とである,・・・[中略]・・・而して一般に現時尺八の吹奏に本曲を吹くものは稀で多くは筝(しよう)曲を奏しているのである。俗曲の一部は筝(しよう)曲よりも尺八に適し他の端唄類も筝(しよう)曲同樣にてきするのであるけれども,俗曲は凡て趣味の低級なるものとして取扱はれてゐる傾向がある,是は現時尺八は一般に家庭に入込(いりこ)むだ結果であらう,長唄その他ものは尺八にはむしろ適當しない,其は尺八の音色そのものが是等の曲の性質と一致しないからである。・・・[中略]・・・端唄物では三弦に上(のぼ)せがたい抑揚のあるも例令(たとへ)ば追分節其他棹(さお)歌の類は,尺八の長所を發輝するには特に妙味がある。

如何にせば美音を發するか
ここには「尺八は俗に首振り三年と云ひまして唇の變化により音(おん)を種々に變化せしむる事が出來ますから,尺八の方は正確に出來てをつても唇を適當にあてゝ吹かぬと正確なる調律がでませぬ。・・・[中略]・・・本會専賣の尺八調子笛を以て其眞の調律を研究しますと首振り三年は僅々三ヶ月成功します。」として,「首振り三年」を音程の問題としてます.

各國音譜對照表
この対照表をみると,ツメは中メリを意図していると思われます.本書の後半の「尺八音譜集」に掲載されている「君が代」の譜でもツメは中メリで,ツの半音下になっています.
Kenkyukai03
十二律圖解 七音
この指使いの表と説明文には孔の半開の指示がありません.
Kenkyukai04
七音圖解
ここには「尺八は唇の加減及熟練と息の強弱によりて無數の音(おん)を發す」と書かれていて,孔の全開閉以外の音程の調整は吹込みの調節で行うように書かれているようです.図中では,ウがレの全音上,チがウの半音上,リがチの全音上と示されています.この説明が正確であれば,チが現代の尺八より半音高いことになります.
Kenkyukai05
音譜の説明
この指使いの表には前掲の「十二律圖解」の表および「七音圖解」の説明と異なり,メリは孔の半開で説明され,吹込みの角度(「唇の加減及熟練と息の強弱」)の調節の説明がありません.
Kenkyukai06
拍子
この節に,「日本在來の諸音曲中比較的完全に近い實用的音譜を有して居(を)るものは獨り尺八のみであつて」と書かれています.当時の尺八譜が「完全」とは思いませんが,当時の尺八譜が最も新しく改良されていたことは事実だろうと思います.


本書の内容

尺八の故事來歴
 由來
 異筝及び種類
尺八の流儀
 流儀
尺八の造り方
 製管法
尺八の吹奏法
 吹奏法
尺八曲の種類
 吹奏さるゝ曲の種類
第四 初歩者は如何なる尺八を求むべきか
如何にせば美音を發するか
尺八譜讀みの練習法
説明付姿製圖
 (正則なる尺八の持ち方)
 (持ち方要件)
尺八の消毒法
各國音譜對照表
十二律圖解 七音
七音圖説(普通音階)
 三味線調子合方
 音階の練習 四拍子
音譜の説明
拍子及び記號
複音(搖
[ゆす]りの事)
拍子
音符間拍子
合奏之心得
尺八音譜集 
[31曲]

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