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關西音楽會(1913)「大正式 尺八獨奏 音譜明確」

国会図書館で公開されています.

(著作権保護期間満了)

關西音楽會「大正式 尺八獨奏 音譜明確」
1913年(大正2年)6月10日 堀田航盛館
Kansai01  Kansai02

「關西音楽會」が編集した楽譜集です.

」に当時の尺八を巡る状況が書かれています.国内の中央でも地方でも尺八が日に日に盛んになってきている,とのことです.また編者は,当時の社会が競争社会になっていて,そのような時代であるからこそ「高尚なる趣味を與へ敬慕すべき品性を養はしむるものは,音樂の他に望み得べからず。其音樂中特に尺八の右に出づるものなし,此れ編者が本樂器流行は個人として國家として欣喜すべき所以となすなり」と記しています.いつの時代も同じ...ということでしょうか.

楽譜の記述は「ヒ,フ,ミ」の表記が採用されていますが,下の図の運指表を見ると西洋音階名としての「ヒ,フ,ミ....ナ」とは異なっているようです.琴古流の音名「ロツレ...」の替わりに「ヒ,フ,ミ」が充てられたというように思われます.ただ,図中の1(ヒ)と2(フ)の関係が,乙なのか甲なのかが判りません.
Kansai03
甲乙については以下のように書かれていて,本当にこのように発音されていたのか,不思議に感じます.

音に左の二種ありて吹き方の強弱により管内空氣の振動に差を生じ音の高低を來たす。
  甲音 強く吹きて發する高音なり。
  乙音 通常に吹きて發する低音なり。


本書の内容は以下のとおりです.


目次
吹奏法
 一 尺八の持方
 二 音律
 三 音譜
 四 調子の合方
 五 同音連續
流行歌之部 
[10曲]
俗曲之部 [17曲]
筝曲 残月
唱歌之部 
[10曲]
清樂之部 [3曲]
歌之部 [34曲]


尺八は我國固有の樂器にして,此を吹奏するてうことは古(いにし)より物の文(ふみ)にも見え,風流にして俗臭を脱し,優雅妙趣なる音聲は,其吹く人の,啻(たゞ)ならぬを思はしめ,高尚に,趣味ある,樂器たるは,他和洋各種樂器と其斑を異にす。
近來文明の進歩は,社會一般人士の品位を高尚にし,随(したがつ)て趣味亦向上して,審美的情操大(おほい)に進歩し,此(この)雅笛の流行日を遂(お)ふて盛となり,都といはず,鄙(ひな)といはず到る處此の妙音を聞かざるの地なきに至りたり。是れ誠に國家の爲め將(ま)た個人の爲めに,欣喜すべき傾向なりとす。
抑(そもそ)も社會は瞬時も静寂を許さず,駸々乎(こ)として駿馬(しゆんめ)の進むが如くに發逹して止まず,其發逹に伴ひ,生存競争は益々激烈となり,吾人は朝日昇るの時,睡眠より一度眼瞼(がんけん)を開けば茲に此競争塲狸(ぜうり)の勇士となり,晩餐一杯のお仕着せに勇士の心も身も始めて緩みを來たす,其間(あひだ)唯一心に競争に打勝ち生存を全(まつた)ふせんのみ。何の暇ありてぞ美又趣味を思はんや,人唯生存のみに,心身を疲勞し其他高尚なる趣味なきに至らば,他動物と一般,所謂萬物の靈たる所なきに終(おは)らん,是れ人を驅つて動物と化するものにして人生の本領を没却するものなり。此間に在りて高尚なる趣味を與へ敬慕すべき品性を養はしむるものは,音樂の他に望み得べからず。其音樂中特に尺八の右に出づるものなし,此れ編者が本樂器流行は個人として國家として欣喜すべき所以となすなり,尚一層の流行を見て欣喜の度の倍々(ますます)加はらんことを望む爾云(しかいふ)。
大正二年初夏    編者識

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水野郁道(1913)「尺八早まなび」

国会図書館で公開されています

(著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開)

水野郁道「尺八早まなび」
1913年(大正2年)9月11日 東京尺八講習会

Mizuno01  Mizuno02
本書は琴古流で一般に用いられるロツレチ式の記譜が採用されています.

はしがき」には本書が「初めて尺八を吹いて見やうといふ人」を意図して書かれていると述べられています.一方,「然し尺八は此[この]本にある樣な。軍歌や唱歌。はやり歌。ばかりを吹くものではありませんから」として,本書で尺八に慣れた後には「正確な教師に就いて稽古」するようにと指示しています.もしそれができない場合のために東京尺八講習所の通信教授を紹介しています.

メリは顎による音程の調説ではなく,指孔の半開で説明されています.本書の楽譜の分野であれば妥当な説明だとお思います.

使用する尺八には,1尺8寸管または1尺9寸管が推奨されています.


目次
解説
尺八と各部分の名稱
尺八の保存法
尺八の持ち方
容易に尺八を鳴らす法
「カン」「呂」。甲。乙の事
尺八の音符
半音の事速度と吹奏法の記號
完全なる尺八撰擇法
尺八孔割の寸法圖解 尺八早まなび(練習曲)
 追分節
(唱歌の部)君が代,桃太郎,お月さま,花咲爺,風車,鳩ポツポ,兎と龜,鐵道唱歌
      織なす錦,螢の光り,金剛石,散歩唱歌,自然の美,箱根の山
(軍歌の部)四百餘州,敵は幾萬,我海軍,水雷艇,凱旋
(俗曲の部)梅が枝,數へ歌,いそぶし,まがいいぶし,東雲ぶし,高い山,松盡し,かつぽれ
(長唄の部)勸進帳,越後獅子,鶴龜


〇「カン」「呂(りょ)」。甲(かう)。乙(おつ)の事
「カン」といふは「ピー」といふ「カンバシリ」たる音。「呂(りょ)」は「乙(おつ)」ともともいふ「ボー」といふ音の事である。
[以下略]

〇尺八の音符

[前略]
音符の上に(メ)の記號を附してあるものは其音符の一番上(レなれば二の孔。チなれば三)の孔を少し明けて半音低く吹くのである(中)と記したのは「中メリ」で(カ)と記したのは普通の音よりも高く(カリ)で吹くものである

〇完全なる尺八撰擇法
長サ 尺八には種々の長さのものがありますが。先ず曲尺(かねさし)で「一尺八寸」か又は「一尺九寸」のものが宜(よ)いので。是よりみじかければ三味線に合いませんから無論駄目です。是より長いのは差支へなし。然し寸法の一尺八寸五分とか。一尺九寸三分という樣な半端なものは價(ね)は安いが二人で共に吹く時は一分でも寸法が違へば調子が揃はぬもの故寸法の揃つたものを買はねばなりません
太さ 普通は一番上の節とその次の節との中間で廻(まは)り三寸五分以上三寸八分位迄のものが適當です
節 七節で三と四の間に下から第五の節があるものが上等です
[以下略]
孔 手孔は次の樣な割合で開けてあるものでなければいけませぬ 一尺八寸の尺八なれば下より一の孔の中央迄が三寸九分。孔と孔の中央から中央迄が一寸八分。四の孔の中央から五の孔の中央までが一寸三分になるのであります
Mizuno03

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滝井南舟(1914)「 琴古流尺八楽譜 竹の志らべ  第一集・第二集」

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(著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開)


滝井南舟「 琴古流尺八楽譜 竹の志らべ  第一集」
1914年(大正3年)6月1日 盛林堂

Takii0101   Takii0102

本書は琴古流で一般に用いられるロツレチ式の記譜が採用されています.これについて「凡例」では,この記譜法が当時最も「専門的」ではないためと書かれています.

使用する尺八については,「尺八の寸尺」に,1尺1寸管から2尺管が主に使われていて,時に2尺以上の長さの管も使われていたと伺われる記述があります.著者はこの記述に続き,本書に記載した曲の演奏にB管を推奨してます.現代の尺八ではこれは2尺1寸管に相当しますが,当時の尺八は現代の尺八より半音程度低かった可能性があるので,2尺~2尺1寸管を想定していると考えられます.

メリとカリについては,「その音符」の項に,腮の向きで半音を上下すると記述され,一つの指遣いで半音刻みの3つの音程を出すと書かれています.また,メリとは別に指による孔の半開で,半音を下げる方法も記載されています.

「甲と呂の音」に,甲と呂の吹き分け方法として息の強弱の方法が記述されていますが,これには違和感を感じます.ただし,この時代の教授本はすべて同様の説明です.


凡例
目録
尺八の寸尺
その構へ方と吹方
その音符
甲と呂の音
特殊の指法
拍子、音符の長短
合奏の心得
第一集 樂曲
 黒髮,六段調,千鳥,ゆき,櫻狩,長唄 明の鐘,長唄 勸進帳,

 義太夫 寺子屋, 清元 喜撰,春雨,松前追分,深川おどり,いそ節


凡例
 [抜粋] 一.第一集には多少心得ある方の爲に,最も正確なる箏曲及び長唄等を集めてある。
一.第二集には最も初歩の方の爲に普通の流行歌,端唄等を集めて獨習の便としたのである。
[中略]
一.著者は多年斯道の爲教授に盡してゐたが,それの爲にする音譜は専門的に傾くので種々記譜法を斟酌して本書の記譜としたのである。
[以下略]

尺八の寸尺 
[抜粋]
尺八はその名の通り,普通一尺八寸としてあるが,併しこれ迚(とて)も筒の廣狭(ひろいせまい)によつて調子に相違があるから,要は弄ぶ人の適度のものを撰ぶがよい.その丈には短きは一尺一寸位から長きは二尺以上のものもある.さりながら短(たん)に過ぎたのは調子が高過ぎて,尺八的の豐艶な音に乏しくなり,長(ちょう)に過ぎる時は調子が低くなつて鈍音のみとなるから,まづ尺八の長さで,嚴密にいへば筒音(つつね)(即ち總ての孔を塞いで出す音(ね))が壹越調,西洋樂でいへばB(即ち八調の7・)に相當するものが可(よい).尤も息の強弱によつて,竹に斟酌があつてもよい.[以下略]

その音符
[前略]
一メル 例へばロ音を出す時,腮を内へ引き吹く時は半音低きロ音となる.[以下略]
一カル 右の反對にカルと記されてあるは,腮を外へ出し加減にして半音高き音を出すのである.[以下略]
一半開 ある孔に當(あて)し指を全然開かず半開(はんびらき)にする時は,また半音相違せる音を出し得るのである.例えばツ音を出(いだ)すべき指法[で第二孔を半開]とする時は半音低きツ音を出し得るのである.[以下略]

甲と呂の音
[前略]甲の音を出すには唇に力をいれ強く吹入れ,呂音を出すには弱く吹入れるのである.[以下略]

巻末の広告
獨習用樂譜
 町田櫻園「最新尺八獨習自在」,「尺八獨案内」
 成齋樂人「俗曲獨習 尺八速成自在」

滝井南舟「 琴古流尺八楽譜 竹の志らべ  第二集」
1914年(大正3年)12月1日 盛林堂

Takii0201   Takii0202

第二集の「凡例」には,当時の事情の中で本書を刊行する意図が書かれています.日本伝統音楽の伝承が閉ざされた中にある傾向に対して,邦楽の発展のために本書によって理解しやすい簡明な記述で楽譜を作成して広く公開したいという意図です.


凡例
尺八の寸尺
その構へ方と吹方
その音符
甲と呂の音
特殊の指法
拍子、音符の長短
合奏の心得
第二集 樂曲
 竹になりたや,花の曇り,博多節,梅は咲たか,紀伊の國,

 三十三間堂,きやり,わがもの,淀の車, こすの戸,おとし文,

 小原女,時宗,たなの達磨,ふけてあふ夜,さんさ時雨,

 ぎつちよん,雪はともえ,ぞめきにごんせ,かうもりが,

 舌出し三番,春はうれしや,數へうた,だがね節,おいとこ節,

 米山甚句,常磐津 將門,長唄 越後獅子,八千代獅子,江の島


凡例
一 由來日本音樂には秘曲の,許(ゆるし)の,口傳のと夫々専門家にはておつくうな習得法があるが,是からの世はそんな偏狭なことではすむまい.西洋音樂では完全な樂譜によつてどんどん大曲名曲を紹介する時節,徒らに他を罵り,指缺(しけつ)を以て事とする樣では我邦樂の改善發逹は望まれぬと信ずる。
一 と,こんな理屈を言出すにも當らぬが兎角樂譜等の著作に對しては彼是批難する一派の手合があるから特にこゝに斷つて置いて偖(さて)本書はその批難を甘んじて受ける事を萬々承知で著はしたことを告白する。
一 夫(それ)は専門家には専門家の指法や特殊の演出法がある譯(わけ)であるが,本書の趣旨はその専門家が首肯すべき樂譜を作るのでなくて初歩入門の人々に出來得る限り簡明に正確に會得せしめたいのが主眼である.随って繊細な手法等は省略せねばならぬ場合もある.これは已むを得ぬ事であらう。
[以下略]

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野田桂華(1910)「新曲尺八獨奏」

野田桂華「新曲尺八獨奏」
1910年5月27日 井上一書堂

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(著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開)


Noda01  Noda02

本書の章は以下のとおりです.
はしがき
吹奏法
音符
音譜記號
目次 
[音譜]
 唱歌軍歌の部[10曲]
 清樂の部[6曲]
 俗曲の部[32曲]


はしがき」によれば,既に尺八譜は多数出版されていて,その多くは音程は正確に記述されているもののリズムの表記が不完全のため,初心者はそれらの楽譜を用いても演奏が難しいので本書を著したと,本書の出版の動機が書かれています.また,尺八各流派特有の記譜法には依らず,一般的な記譜法を目指したようです.

はしがき
・・・幾多散在せる是等同種の書を繙け、その多くは斯道名手の編述に成るものなれば、音の高低正確にして、教ふること周到、一點の問然する所無きが如きも只惜しむらくは音の長短記號不完全なる爲め、初學の者をして演奏に迷はしむもの尠からず、・・・
・・・音符記號の如きも各流派特種のものと使用せる爲め、一巻の獨習書に由つて習得せし者は、他の同種書を見る能はざるの不便あり、・・・


音譜の解説は以下のとおりです.

音符
従來の尺八獨習書は各(おのおの)特種の記號を用ひたれども本書は悉く西洋音譜となしたり即ち下の如し。
Noda03
この図では,尺八の筒音がヒ(ド,C)なので2尺管の音程かと思います.ただ,当時の尺八は現在の尺八より半音程度低い可能性がありますので,1尺9寸管または2尺管が想定されているのかと思います.

図中の赤字は私の加筆です.この表の中では次のような疑問があります.
1.①から⑫は五線譜ではヒ(ド,C)からナ(シ,B)までの12の音階が半音刻みで並んでいます.ところが,尺八の運指表では,②と③の間,⑤と⑥の間,⑦と⑧の間が,それぞれ1音の間隔になります.
2.上記のため,③以降は五線譜に示された音程と尺八の運指にずれが発生してます.
3.⑩は①の1オクターブ上の音になるはずです.
4.⑪と⑫は通常に使用する運指ではありませんが,現代の尺八では,⑪は⑩から音程の変化がほとんど無く,⑫は乙では甲の①(=⑩と同じ音程)より少し高い音になり,甲では甲の⑩よりほぼ1音高い音程になります.
5.⑬はムと書かれていて五線譜ではシ(B)と書かれていますが,①から⑫の5線譜を参照すれば,ムであればラ(A)のはずです.一方,尺八の運指表の音はド(C)でヒになります.
6.現代の尺八では,⑭は甲の⑩(=⑬)とほとんど音程の変化はなく,⑮は甲の⑩(=⑬)よりほぼ1音高い音になります.
7.図中の括弧書き「(高音の指の・・・・相違す)」の正確な意味は判りません.

なお,掲載されている楽譜はヒ,フ,ミ・・・ム,ナの文字で表記されています.

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川本逸童(1911,1912)「尺八獨案内」上編・下編

川本逸童「尺八獨案内 新式間拍子解説」上編
1911年8月12日 東京尺八講習会

(著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開)

Kawamoto02101  Kawamoto02102
自序
目次
尺入の構造及取扱法  附 尺八の圖並に各部名稱・・・露切の圖
十二調子の事
尺八音符圖解の(一)並十二調氏對照
尺八音符圖解の(二)
半音「メリ」「カル」の事
新式間拍子法の特長
「カン」「呂」俗に甲,乙,の記號法と定義
同音接續法
抑揚及緩急記號
間拍子の原理と其定義
間拍子獨習法
間拍子記號法並圖解
諸種の記號
箏,三味線合奏法
合奏に就ての注意



自序」には,「路傍に立て一錢を乞う輩の吹く野卑な曲計りより世人の耳に觸れないから自然是を模して自己流に吹く者が多い、近來は盛んに流行して全國中至る處尺八の音を聞くが完全なる教科書の尠ないために前述の弊害は免れない、」と当時の状況を記し,本書の刊行目的を「今回東京尺八講習會が新式記號を用ひて曲譜を刊行するに先だち本書を著して獨習者の指導となし併せて諸君の高教を仰がんとす」と記述しています.

「新式間拍子」「新式記号」とは,下編の曲譜を見る限り,現在の琴古流で使われている記譜法とほぼ同じもので,現在の琴古流の譜の知識で普通に読むことができます.本書の譜では,メリを使った半音階も含まれていて,リズムと共にほぼ正確な音程での旋律が記述されています.

尺入の構造及取扱法」に「成るべく一尺八寸、又は一尺九寸を用ゆるを宜しとす」と書かれています.

十二調子の事」に,「洋樂は一曲中に十二音の全部を用ゆること少なく、普通はイ調よりト調に至る間に十二調子の内七音宛を交代に用ひ、特殊の場合には別に記號を用ひて半音を表はしつつあり」とあり,この記述自体からも当時はまだ西洋音楽への理解が進んでいないことが伺われます.これに続き「尺八は普通五音にて他の七音は凡て「メリ」「カル」に依て發するものなり發音の數は低音十二、高音十二、最高五音、外に秘音と稱するもの七音ありて全部の音は特殊の音符を除き三十六音を有する者也」と書かれています.


川本逸童「尺八獨案内」下編
1912年3月2日 東京尺八講習会

(著作権法第67条第1項により文化庁長官裁定を受けて公開)
Kawamoto02201  Kawamoto02202
上編で説明された記譜法を用いて,この下編では前半に練習曲,後半に九曲の曲譜が記述されています.

目次

尺八吹奏法の練習順序
音符運指練習
 附 同音接続練習
緩急記號(間拍子)練習
 練習用曲譜
   君が代,姫まつ,數へ歌,さくら,梅が枝,金毘羅船,十日蛭子,
   黒髪,弓八幡
高音練習

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町田櫻園(1909)「音調正確 尺八獨習自在」

町田櫻園「音調正確 尺八獨習自在 (一名 日本新俗曲集)」
1909年8月13日 林盛林堂

Machida01  Machida05
本書の章は以下のとおりです.
  本書の特長
  尺八
  奏法
  音符
  拍子
  休止符
  雑記號
  三絃及箏
[こと]と調子の合方[あわせかた]
  歌曲目録
    六段,筝曲やま櫻,筝曲瀧づくし,筝曲松風,長唄時宗,
    長唄芳原雀,清元北洲,筝曲玉川,いそぶし,さのさ節,
    りゅーせい節,占領ぶし,有明節,夢のよや[?]節,春は花,
    八千代獅子合方,越後獅子,琉球節,大津繪,おたがひに,
    淀の車,夜ざくらや,米山節,月がかさなりや

本書の記述の要点は以下のとおりです.

本書の特徴
一、從來出版せられたる書の如く或原譜の直譯(ちよくやく)に非ず、尺八には尺八の音譜あり、そを西洋樂譜に倣ひて最も正確にあらはしたり。
一、本書題して尺八新獨習書といふ、然れども西洋音樂譜の如何を解したる人はまた本書を取て、風琴にヴァイオリンに尺八的樂譜の妙味をしることを得べし。
一、本書また日本新俗曲集ともいふは、その内容の從來出版せられる書に散見する曲以前(いぐわい)に新しき曲譜を選び輯(あつ)めたるを以てなり。
    櫻園識す

尺八
 [抜粋]
尺八の音色は優雅にしてまた暢麗なり,月清(きよ)く風静(しづか)なる夕(ゆうべ),巧に吹きすさはん時,聞く人斷腸の思あるべく,また仙界に身を置くの想あるえbし,昔(いにしへ)は虚無僧が回向の爲とて吹きならせしを,近時荒木竹翁(古童改)等箏,三絃(さみせん)等(など)と合奏せんが爲筝曲或(あるひ)は長唄の譜をつくりこれを外曲と稱して盛に教授してより後所謂三曲には缺べからざる樂器となれり。

音符
 [抜粋]
尺八には専門家に用ゐらるゝ,ロ,ツ,レ,チ,リ,ヒ,ハ,等(など)と音符あり,また拍子の緩急は朱點或(あるひ)は朱線等(など)にて書き入るゝ樣なれど,これに至つて不完全なるものにして,初學の者の到底悟り得(う)ざる所なり,故に本書にては西洋樂譜の1(ヒ).2(フ).3(ミ).4(ヨ).5(イ).6(ム).7(ナ).の階名をかりてあらはすことゝせり,これを尺八的音符と對照せば次の如し。

Machida02  Machida03
「本調子・三下り」と「二上り」の二つの音階の図が示されています.
両図は尺八の音名(ツ~ヒ)と,二つの音階名(1~7,ヒ~ナ)の対照表になっています.

各図を見たところ,尺八の指穴の開閉を考慮しても,「本調子・三下り」の図で1音(4カ ヤ),「二上り」の図で2音(4カ ヤ,7メル ネ)の,私には理解できない音階名がそれぞれ記載されています.

「本調子・三下り」の図
「ツ(メル)=1 ヒ」をCの音とすると,「チ(カリ)=4 ヤ」と「り(メル)=5 イ」は共にGの同じ音程に思われます.「チ(カリ)=4 ヤ」の設定が判りません.「チ(カリ)=4 ヤ」を無視すると理解できます.
「イ=5 イ」,「ハ=7 ナ」,「ヒ=1 ヒ」はいずれも実際の音と記されている音階名とは異なるように思います.

「二上り」の図
「リ(メリ)=1 ヒ」はこれをCとすると,Dの「リ=2 フ」から2度下げるメリと思われます.
「ツ=4(カリ) ヤ」は穴の開閉から考えると「5 イ」のGで,そうすると「レ=6 ム」はAですから,「ツ(カリ)=5 イ」は何でしょうか?
「チ=7 ナ」はBと思われますので,「ウ=7(メル) ネ」は何でしょうか?
「ツ(カリ)=5 イ」と「ウ=7(メル) ネ」を無視すると理解できます.
「イ=1 ヒ」,「ハ=3 ミ」はいずれも実際の音と記されている音階名とは異なるように思います.
Machida04
3オクターブの音名が示されていますが,演奏可能だったのでしょうか?

本書の後半に掲載されている楽譜は,尺八の音名ではなく音階名(1~7)での記譜になっているため,調子によって譜読と音名が異なる可能性があり,演奏が私には極めて困難になっているように感じます.


本書の末尾に出版広告があり,その中に以下の尺八教則本がありました.

  広告
    町田久編「尺八獨案内」
    山本有所編「尺八師範」
    成■樂人編「俗曲獨習 尺八速成自在」

★西洋楽譜に倣うとしながらも,随分と複雑な記譜になってしまっています.ここまでの工夫に努力するのであれば,五線譜の導入を試みた方が良かったと思うのですが,当時は余程に五線譜が普及していなかったのだろうと思います.実は,この状況は100年経過して義務教育ですべての人が五線譜を学習しているはずの現在の尺八界でもそれほど改善されているとは思えません.本曲,外曲(三曲等)以外は五線譜で記述したほうがどれほど簡便になるかと,いつも感じています.

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小林紫山「尺八秘儀」

小林紫山「尺八秘儀」
原書1922年11月の復刻版

Shizan01   Shizan02   Shizan03


京都明暗寺の明暗導主会によれば,本書は木村壺堂による復刻.

著者小林紫山は京都明暗寺第三十五世看主(明暗導主会によれば第三十六世看主).

」によれば,著者は大正5年(1916)に「明暗尺八解」と,2,3の音譜を発行したが,その後の研究成果を踏まえてこの「明暗尺八解」を改訂して「尺八秘儀」と改題して発行した,とのこと.なお,今後にこれとは別に「糸曲」(外曲,三曲の意味か?)の音譜を発行する考えもあったようです.

著者の本書での姿勢は,「」に,「現時尺八趣味向上の結果糸曲の吹奏に●[?]らざる傾向を生じ著しく本曲研究を唱道さるるに至れるは正しく斯道の覺醒にして研究の正路に入り堂に昇るの階梯たらんとするものなり」と述べています.

また,当時の状況として,「緒言」では,「現時尺八が一般趣味が一般に普及し隆盛を極むるは斯界の爲め洵[まこと]に歡ばしき事なり然りと雖も餘りに歌曲吹奏に偏し古来傳ふる所の本曲を閑却さるるに至れるは遺憾に堪えず」,「普化宗廢絶後幾十年を経過したる今日に於て尚法音の遺響絶へざるは實に喜ぶべきことなり」と記述しています.

本書は,具体的な演奏技術を説明するというより,本曲演奏の心構えを述べたものです.

吹込みの事」の章に,尺八の音について,「秋風の樹木を掠めるかすれた音や鐘を撞いた刹那の力の籠った音や蓮の花の開く微妙な爽やかな音」を目指し,「吹かずに吹けた息は其音が糸より細く断續綿々として自然の妙味が出る」としています.

メリとカリについては,「メリカリの事」の章に,「顎を俯向いて吹き次第に仰向けば其音は低律より高律になる事を知らん其低きがメリ高きがカリにて甲乙兩音ともに律の高低をいふのである」,「メリカリは音の上の綾であり抑揚であり變化である激■[流?]巌を噛むの水勢と(カリの味ひ)終には深淵渦を爲すの洋々たるが如く(メリの味ひ)そこに自づから清澄の気が充実してゐる」と説明しています.また,「吹き方研究」の章には,演奏の一つの例として「ハーハイー」の譜が示され,これについて「顎は中庸よりカリになる」と図を示して顎の変化を説明しています.


 序
 一、緒言
 一、尺八の由来
 一、吹奏の心得
 一、吹込みの事
 一、メリカリの事
 一、餘韻の事
 一、吹き方研究
 一、運指の心得
 一、結論
 附録 音譜解説
 曲譜一例 調子(一部) 雲井曲

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