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關西音楽會(1913)「大正式 尺八獨奏 音譜明確」

国会図書館で公開されています.

(著作権保護期間満了)

關西音楽會「大正式 尺八獨奏 音譜明確」
1913年(大正2年)6月10日 堀田航盛館
Kansai01  Kansai02

「關西音楽會」が編集した楽譜集です.

」に当時の尺八を巡る状況が書かれています.国内の中央でも地方でも尺八が日に日に盛んになってきている,とのことです.また編者は,当時の社会が競争社会になっていて,そのような時代であるからこそ「高尚なる趣味を與へ敬慕すべき品性を養はしむるものは,音樂の他に望み得べからず。其音樂中特に尺八の右に出づるものなし,此れ編者が本樂器流行は個人として國家として欣喜すべき所以となすなり」と記しています.いつの時代も同じ...ということでしょうか.

楽譜の記述は「ヒ,フ,ミ」の表記が採用されていますが,下の図の運指表を見ると西洋音階名としての「ヒ,フ,ミ....ナ」とは異なっているようです.琴古流の音名「ロツレ...」の替わりに「ヒ,フ,ミ」が充てられたというように思われます.ただ,図中の1(ヒ)と2(フ)の関係が,乙なのか甲なのかが判りません.
Kansai03
甲乙については以下のように書かれていて,本当にこのように発音されていたのか,不思議に感じます.

音に左の二種ありて吹き方の強弱により管内空氣の振動に差を生じ音の高低を來たす。
  甲音 強く吹きて發する高音なり。
  乙音 通常に吹きて發する低音なり。


本書の内容は以下のとおりです.


目次
吹奏法
 一 尺八の持方
 二 音律
 三 音譜
 四 調子の合方
 五 同音連續
流行歌之部 
[10曲]
俗曲之部 [17曲]
筝曲 残月
唱歌之部 
[10曲]
清樂之部 [3曲]
歌之部 [34曲]


尺八は我國固有の樂器にして,此を吹奏するてうことは古(いにし)より物の文(ふみ)にも見え,風流にして俗臭を脱し,優雅妙趣なる音聲は,其吹く人の,啻(たゞ)ならぬを思はしめ,高尚に,趣味ある,樂器たるは,他和洋各種樂器と其斑を異にす。
近來文明の進歩は,社會一般人士の品位を高尚にし,随(したがつ)て趣味亦向上して,審美的情操大(おほい)に進歩し,此(この)雅笛の流行日を遂(お)ふて盛となり,都といはず,鄙(ひな)といはず到る處此の妙音を聞かざるの地なきに至りたり。是れ誠に國家の爲め將(ま)た個人の爲めに,欣喜すべき傾向なりとす。
抑(そもそ)も社會は瞬時も静寂を許さず,駸々乎(こ)として駿馬(しゆんめ)の進むが如くに發逹して止まず,其發逹に伴ひ,生存競争は益々激烈となり,吾人は朝日昇るの時,睡眠より一度眼瞼(がんけん)を開けば茲に此競争塲狸(ぜうり)の勇士となり,晩餐一杯のお仕着せに勇士の心も身も始めて緩みを來たす,其間(あひだ)唯一心に競争に打勝ち生存を全(まつた)ふせんのみ。何の暇ありてぞ美又趣味を思はんや,人唯生存のみに,心身を疲勞し其他高尚なる趣味なきに至らば,他動物と一般,所謂萬物の靈たる所なきに終(おは)らん,是れ人を驅つて動物と化するものにして人生の本領を没却するものなり。此間に在りて高尚なる趣味を與へ敬慕すべき品性を養はしむるものは,音樂の他に望み得べからず。其音樂中特に尺八の右に出づるものなし,此れ編者が本樂器流行は個人として國家として欣喜すべき所以となすなり,尚一層の流行を見て欣喜の度の倍々(ますます)加はらんことを望む爾云(しかいふ)。
大正二年初夏    編者識

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