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上村雪翁「曲譜正確 尺八雑曲集」

国立国会図書館で公開されている文献資料です.

上村雪翁「曲譜正確 尺八雑曲集」
1898年(明治31年) 矢島誠進堂
(文化庁長官裁定を受けて公開)

01  

上村雪翁の1898年(明治31年)の尺八楽譜です.いわゆる俗曲の46曲と地唄2曲の譜が掲載されています.地唄は「茶おんど」と「松竹梅」です.

上村の教則本・曲譜はいくつか出版されています.この本には平易なものからかなり難度の高いものまで掲載されています.譜はフホウエ式です.緒言には独習 用の教本を意図しているように書かれていますが,実際にはどのように使われたのでしょうか? 「独習」の意味が現代とは違っているのかもしれないという印 象も持っています.

ちなみに緒言では,この時代に「粗漏杜撰なるもの多く其甚だしきに至りては諸流を混交し雑駁不定にして却つて初學者を惑はし害ふもの少からず」と書かれて いますが,それがどんなものか,興味があります.「諸流を混交」とは何か? 都山が成立する以前なので,虚無僧系列の諸家と琴古流系(「琴古流」という概 念も無かったはず)の諸家がそれぞれ作譜していたのだろうと思います.上原の付点記譜法もまだ一般的でなかった時代です.

巻頭の緒言に続き,「十二律譜表説明」として12種の指使いが示されています.このうち6種が5孔の開閉による音階で,残りの6種は特殊音です.

これに続き「音符」として演奏法の詳しい説明が続き,その中に次の記述があります.「合符」とは,楽譜の文字の横に注記として書かれる記号です.

▲ 此符は半開符(はんかいふ)とて其孔(そのあな)を開(ひら)きゝらずして指(ゆび)を下方(かほう)に外(はづ)し孔(あな)を半(なか)ば開(ひら)き呼吸(いき)を弱(よわ)め乙(おつ)に吹(ふ)くの合符なり

下 此符は音聲(ふくこゑ)を低(ひく)くするの合符なり

おそらく,前者はいわゆる「指メリ」,後者は「顎メリ」のことと思われます.この時代には「メリ」「カリ」の語は無かったのでしょうか?

また,甲と乙について次のような記述がありました.

甲 此符は俗(ぞく)に「カン」と云(い)ひて音(ね)の高(たか)きを云(い)ふ即(すなは)ち格別(べつだん)に呼吸(いき)を強(つよ)めて音聲(ふくこゑ)を高(たか)く吹(ふ)くべき合符なり
乙 此符は俗(ぞく)に「オツ」と云(い)ひて音(ね)の低(ひく)きを云(い)ふ即(すなは)ち格別(べつだん)に呼吸(いき)を弱(よは)めて音聲(ふくこゑ)を低(ひく)く吹(ふ)くべき合符なり

この記述とおりに吹いても甲と乙は吹きわけられないので,この本を読んだ初学者は苦労するだろうと思います.

緒言からは時代背景がよみとれます.

緒 言

輓近(ちかごろ)音樂(おんがく)流行(りうかう)の盛(さかん)なる到(いた)る處(ところ)として竹音(ちくおん)絃聲(げんせい)を耳(みゝ)にせ ざるなし然(しか)れども是(こ)れ眞(しん)の隆昌(りうしよう)と稱(しやう)するを得(え)ず予(よ)は言(い)はんとす是(これ)唯(たゞ)時勢 (じせい)の流潮(りふてう)に伴(ともな)ふて其(その)嗜好(しかう)者(しや)を増(ま)したるに過(す)ぎざるのみと左(さ)れば其(その)技 (わざ)の如(ごと)きに至(いた)つては概(がい)しsて音通(ふつう[ママ])の音調(おんてう)曲節(きよくせつ)を會得(えたく)し僅(わず)か に數番(すうばん)の吹弾(すいだん)合奏(がつさう)を爲(な)し得(う)るを以(もつ)て得意(とくい)然(せん)たるの徒(と)多(おほ)きを見 (み)る彼(か)の往昔(おうせき)斯道(しだう)旺盛(わうせい)の時代(じたい)に於(お)ける如(ごと)く各(おの\/)其(その)秘(ひ)を極 (きは)め其(その)奥(おう)に達(たつ)し而(しか)して其(その)技(わざ)の堪能(かんのう)なる聽者(ちやうじや)をして感泣(かんきふ)せし むるが如(ごと)き妙手(めうしゆ)は殆(ほと)んど稀(ま)れなり就中(なかんづく)尺八(しやくはち)の技(わざ)の如(ごと)き特(とく)に然(し か)りとす且(かつ)又(また)近時(きんじ)の嗜好(すき)者(しや)は良師(りようし)に就(つ)き妙手(めうしゆ)を訪(たづ)ねて練習(れんし う)する者(もの)少(すく)なく其(その)多數(たすう)は卑近(ひきん)なる譜書(ふしよ)に依(よ)りて獨習(どくしう)する者(もの)なり蓋(け だ)し是(こ)れ其(その)良師(りようし)に乏(とぼ)しきに由(よ)る歟(か)故(ゆえ)に近來(きんらい)各(かく)技(ぎ)獨習(どくしう)の著 書(ちようしよ)頗(すこぶ)る數多(あまた)ありと雖(いゑ)ども是(これ)亦(また)完全(くわんぜん)なる良書(りようしよ)を見(み)ず粗漏(そ ろう)杜撰(づさん)なるもの多(おほ)く其(その)甚(はなは)だしきに至(いた)りては諸流(しよりう)を混交(こんかう)し雑駁(ざつぱく)不定 (ふてい)にして却(かへ)つて初學者(しよがくしや)を惑(まど)はし害(そこの)ふもの少(すくな)からず歎息(たんそく)の至(いた)りならずや予 (よ)襄年(じようねん)書肆(しよし)の請(こひ)を納(い)れて尺八(しやくはち)獨習(どくしう)の書(しよ)二篇(にさつ)を編述(へんじゆつ) せしが今回(こんくわい)複(ま)た其(その)需(もとめ)に應(おう)じ種々(しゆ\/)の雑曲(ざつきよく)に作譜(さくふ)を以(もつ)て世(よ) に公(おほやけ)にす故(ゆゑ)に本書(ほんしよ)は総(すべ)て予(よ)が家符(かふ)を以(もつ)て長短(ちよるたん)緩急(くわんきう)振曲(しん きよく)の音節(おんせつ)を記述(きじゆつ)したるものにして其(その)結構(けつかう)は簡易(かんい)速達(そくたつ)を主(しゆ)とし専(もつ ぱ)ら初學者(しよがくしや)の獨習(どくしう)の便(べん)を計(はか)りたるものなれば斯道(しだう)の嗜好者(しかうしや)試(こゝろみ)に本書 (ほんしよ)に依(よ)りて練習(れんしう)以(もつ)て其(そ)の實(じつ)を収(おさ)めて始(はじ)めて予(よ)が言(げん)の虚(きよ)ならざる を了知(れうち)せらるへし

難波小澤橋畔  六花軒  上村雪翁 述

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虚無僧研究会関係資料

虚無僧研究会関係の資料2冊を入手しました.

小菅大徹・遠藤賢一編(2005)「月海文庫所蔵目録(尺八・虚無僧関係)」
月海山法身寺発行

Gekkai

まえがき
凡例
Ⅰ 書籍
 1 一般
 2 論考
 3 事典
 4 資料
Ⅱ 逐次刊行物
Ⅲ 譜本
 1 譜面
 2 その他
Ⅳ 古文献
Ⅴ 音源
 1 LP盤 及び 一部小型盤
 2 SP盤


虚無僧研究会(2012)「虚無僧研究会 創立30周年記念誌」
虚無僧研究会発行

Komuken

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