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寺内直子「雅楽を聴く 響きの庭への誘い」

寺内直子(2011)「雅楽を聴く 響きの庭への誘い」岩波新書

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本書によって日本の雅楽の歴史をおおざっぱに言えば次のようになります.中国の「雅楽」は儒教に基づく音楽で,これは日本には伝わりませんでした.中国にはこれとは別に古くから世俗的な音楽「俗楽」と西域の音楽「胡楽」があり,唐代にこれらが融合されて宮廷の饗宴に用いる「燕楽」ができました.燕楽には中国とその周辺諸国の様々な楽器が用いられました.日本にはこの燕楽が伝わりました.日本では固有の起源をもつと考えられる国内各地に神道系の歌舞があり,これが渡来音楽と共に宮廷を中心として伝承された.日本では奈良時代まで多種多様な楽器がつかわれていましたが,9世紀の平安時代になると,次第に重複が省かれ,日本人の好みに合った編成に淘汰されました.この過程で平安時代中期までに尺八が雅楽から消えました.

一方,雅楽の特性として,著者は雅楽が基本的に屋外または屋外に通じる開かれた空間で演奏されるものとして,室内の閉じた空間で演奏される音楽と異なり,演奏の場(トポス)の重要性を指摘しています.演奏の立体性の効果だけでなく,演奏の周囲の様々な音や,聴衆の雑音もが(さらに話し声までもがが雅楽の形成と発展に影響し,演奏本体とトポスが相互の関係をもって雅楽が変容していくものと考えています.

さて,これがとても刺激的な指摘だったものですから,私はこれに触発されて今年5月に知人と人工の音がほとんど聞こえない山里で尺八を吹いてきました.静けさに慣れた耳には騒がしくも豊かに鳴き交わす鳥の声を背景に,私たちの尺八の音は林の木々に反響するという,とても気持ちのよい体験ができました.

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