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坂口安吾「青鬼の褌を洗う女」

青空文庫に掲載されている尺八が使われている文学作品です.

坂口安吾「青鬼の褌を洗う女」.初出は1947年(昭和25年)です.

第二次大戦前後の時代を,社会の旧弊に背を向けるように生きた若い女性が独白する奔放な人生の物語です.

主人公の人生感は次のような一節に現れます.

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 世間の娘が概してそうなのか私は人のことは知らないけれども、私や私のお友達は戦争なんか大して関心をもっていなかった。男の人は、大学生ぐらいのチンピラ共まで、まるで自分が世界を動かす心棒ででもあるような途方もないウヌボレに憑かれているから、戦争だ、敗戦だ、民主主義だ、悲憤慷慨、熱狂協力、ケンケンガクガク、力みかえって大変な騒ぎだけれども、私たちは世界のことは人が動かしてくれるものだときめているから勝手にまかせて、世相の移り変りには風馬耳、その時々の愉しみを見つけて滑りこむ。
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そして尺八は,小説の最後,主人公が人生感をあらためて述懐する部分に出てきます.

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 私は虫の音や尺八は嫌いだ。あんな音をきくと私はねむれなくなり、ガチャガチャうるさいトロットなどのジャズバンドの陰なら私は安心してねむくなるたちであった。
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しかし,主人公がことさら無視しているのは決して日本の伝統というものではなく,むしろ明治維新以降に日本の社会に導入された西欧キリスト教社会の倫理観,社会構造だろうと思います.

一方,「虫の音や尺八」は明らかに日本の伝統美です.主人公にとっては,当時に世界に広がっていた近代社会構造を日本で日本風に色づけるものが日本の伝統美だったのかと思います.その色づけの例が「虫の音や尺八」だったのでしょう.

主人公の生活は,それまでの西欧的近代社会を無視しながら,結局,ジャズバンドに彩られた少し違った色合いの,やはり,西欧的近代社会に入っていくという,そんな生活なのでしょう.

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