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百足登(1894)「尺八の栞」 その1

百足登(1894)「尺八の栞」を国会図書館の近代デジタルライブラリーで入手しました.

これは同年に発行された6冊の「栞」シリーズの1冊で,そのシリーズは「琴曲之栞」,「尺八之栞」,「明清樂之栞」,「横笛之栞」,「胡弓之栞」,「洋樂之栞」です.

「尺八の栞」の宣伝文には「誰人にても本書を開けば數日ならずして自由自在に吹き得べき世間絶無の珍書なり」と書かれていいます.実際にそんなことはあり得ないのですが,この本の目指すところはそういうところにあるようです.

実は,「尺八の栞」はかなり誤植が多く,しかもかなり演奏の基本的なところでの誤植があります.また,シリーズ物として同一著者が執筆していることも考えると,著者は尺八の演奏家というよりは音楽または楽器全般の指導者ではないかと思います.

そこで,その「尺八の栞」の前に「洋樂之栞」を見てみました.

「洋樂之栞」の緒言には以下のような記述があります.

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夫(それ)音樂が印度より傳移して東西兩洋に渡るや一は蒙古人種の手に於て保守的の研究を受け一は高加索(かうかさす)人種の手に於て間斷なく開發的の研究を積みて日に其進歩を遂げたり今日は所謂本邦樂明清樂の如は保守的の一派に属し西洋樂は進歩的の一派に属せり夫(そ)れ此くの如く音樂の出所同一なりと雖も其研究と經過の手段とに至(いたつ)ては霄壤(せうじやう)の差あるを以て今日に至り兩洋音樂の差異は三四百年も其度を異(こと)にするに至れり西洋音樂の樂理樂器整然として完美(くわんび)し世界音樂の長者たるまた偶然ならざるなり
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音楽がインドで発生したと考えた根拠がわりませんし,そういう知識が当時一般的だったのかどうかもわかりません.著者は,そのように一か所で発生した「音楽」が,かたや西洋に伝わり,他方が東洋に伝わったとしています.そして西洋に伝わった「音楽」は研究が進み,常に発展し,一方の東洋では保守的に扱われ,現在は「兩洋音樂の差異は三四百年」の程度としています.しかし,これは論理的にも間違っていて,東洋が本当に保守的ならばインドの音楽がそのまま日本にまで伝わっていなければならないはずです.虚心に見れば「樂理樂器整然」としていることが即そのまま「音楽」の「進歩」ではありませんから,西洋音楽の優越性を言う以前に西洋の優越性を見る前提があったと考えられます.

これを読むと,西洋が進んでいて,東洋が遅れているという,いわゆる社会進化論(social Darwinism)が,この本が出版された明治初頭にすでに日本の音楽界にまで浸透していて,少なくとも著者はその故に,西洋音楽を「世界音樂の長者」とみなしていたと思われます.

しかし,一方,著者の音楽理論の理解にはかなり問題があります.この本での音階の説明では,まず音階を「天然音7音」と「人造音5種」に分け,これらを合わせた12音で「自然音階が組織」されるとしています.失礼な言い方ですが,トンデモ解説になっています.ちなみに「天然音7音」は鍵盤楽器の白鍵に相当する音階,「人造音5種」は黒鍵に相当する音階です.高橋空山(1979)「普化宗史」に記載されている音階理論を思い出してしまいました.

さて,以上のような立場から著者が尺八をとりあげるとどうなるかが,私には非常に楽しみですが,それは次回に.

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コメント

百足登(1894)「尺八の栞」 までデジタルライブラリーにありますか・・。
昔、古本屋さがして買ったのですが。3000円くらいしたかな。

この本、あの時代だからやむを得ない所もありますが、この自習書で尺八が吹けるとはとても思えない本です。
昔はこんなもので、なんか変だなあと思いながら吹いていたのでしょうか。
でもそんな本がベストセラーになるくらい尺八が人気があったとも言えます。

投稿: ろめい | 2009年11月30日 (月) 23時46分

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