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尺八の音は?

文学作品の尺八シリーズ:その9 番外編
尺八の音はどのように聞こえるか?

幾つかの作品からの抜粋です.

樋口一葉:「あきあわせ」から「月の夜」
 村雲(むらくも)すこし有るもよし、無きもよし、みがき立てたるやうの月のかげに尺八の音(ね)の聞えたる、上手ならばいとをかしかるべし、三味(さみ)も同じこと、琴(こと)は西片町(にしかたまち)あたりの垣根ごしに聞たるが、いと良き月に弾く人のかげも見まほしく、物(もの)がたりめきて床(ゆか)しかりし

Yatouの感想;
秋の夜の風情でしょうか,実にさわやか.この尺八はゆっくりと静かに流れる音だと思います.地唄か筝曲の前唄あたりの印象をうけます.手事の印象ではない.尺八本曲にも静かなものがありますが,月との取り合わせでこの文章の雰囲気とは違うように感じます.

徳田秋声:「足迹」
広々した廓内(くるわうち)はシンとしていた。じめじめした汐風(しおかぜ)に、尺八の音(ね)の顫(ふる)えが夢のように通って来て、両側の柳や桜の下の暗い蔭から、行燈(あんどん)の出た低い軒のなかに人の動いているさまが見透(みすか)された。

Yatouの感想;
狂おしいほどに陰鬱で艶かしい雰囲気づくりに「尺八の音」の語が寄与しています.個人的には,あまり浸りたく無い雰囲気.

北原白秋:「邪宗門」から「といき」

大空(おほそら)に落日(いりひ)ただよひ、
旅しつつ燃えゆく黄雲(きぐも)。
そのしたの伽藍(がらん)の甍(いらか)
半(なかば)黄(き)になかばほのかに、
薄闇(うすやみ)に蝋(らふ)の火にほひ、
円柱(まろはしら)またく暮れたる。

ほのめくは鳩の白羽(しらは)か、
敷石(しきいし)の闇にはひとり
盲(めしひ)の子ひたと膝つけ、
ほのかにも尺八(しやくはち)吹(ふ)ける、
あはれ、その追分(おひわけ)のふし。

Yatouの感想;
この場面で「追分のふし」というのには,違和感を感じます.曲のイメージより語感優先?

辻潤:「『享楽座』のぷろろぐ」
虚無の大象に跨がり 毒々しい紅百合を嗅ぐ
サルダナパロスよ!
しばらく月光の下に汝の従順なピエロオと戯れろ その時 汝の尺八は幼稚なトロイメライを奏でて 汝の胸の冷蔵庫に秘められたドス黒い心の臓に 真赤な旋律を
点火するであろう

Yatouの感想;
何を言っているのか良くわかりませんが,尺八でトロイメライを演奏すること自体が幼稚な感じがしますけど....

寺田寅彦:「蓄音機」
このような方面にはまだたくさんの探究すべき問題が残っている。ことに日本人にとっては日本語の母音や子音の組成、また特有な音色をもった三味線や尺八の音の特異な因子を研究するのはずいぶん興味のある事に相違ない。私はこの種の研究が早晩日本の学者の手で遂行される事を望んでいる。

Yatouの感想;
明治期の先駆者はたしかに先見の明があったと思います.しかし,さらに良く考えれば,バイオリンにしろトランペットにしろそれぞれ特有の音色を持っているのであって,日本の伝統楽器だけが特殊な音色を持っているわけではありませんので,海外物に比較して日本伝統物が「特殊」という見方の先駆者のひとりでもあるかもしれません.「特有」の意味を間違えていなければOKですが.

以上の原典は青空文庫HPで探してください.

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コメント

>辻潤:「『享楽座』のぷろろぐ」
>汝の尺八は幼稚なトロイメライを奏でて
いかにもダダイスト辻の面目躍如ですね。
辻潤は荒木古童について尺八を学んでいてかなりふけた人です。(尺八教授もしていました)
大正の当時、世間では洋楽が入ってきていて尺八でトロイメライなんてやるのはよくやられており、その軽薄さに対する皮肉なのでしょう。
辻潤の尺八は確かK氏のところにあったような。

投稿: ろめい | 2007年1月 2日 (火) 10時18分

Ytou さん、ろめいさん、新年おめでとうございます。

辻潤は読んだことがないのですが、トロイメライを尺八で吹くのって、幼稚で軽薄ですか?

ミーシドレーーーー、ミミレミーーーー、
ファファミラーーソファミシドレーーーー、ミミレドーー○。
ソララソファソミファシドドシラシソ#ラドレシドレミドレミーーーー、
レドラシーーーー…

終わりのほうが思い出せないけれど、ちょっと吹いてみた感じではそこそこ良い雰囲気だと思うのですが、感覚が違うのかなあ?
かなり難しいし、キーや尺八によってはでこぼこしてしまうけれど、気の利いたピアノ伴奏者が聞けば、「あら素敵ね」とか言ってすぐに左手を合わせてくれるくらいのものはあると思うのですが。

> 汝の胸の冷蔵庫に秘められたドス黒い心の臓に
> 真赤な旋律を点火するであろう

「お前は心の冷たいいやなやつだけど、尺八でトロイメライを吹くことで、純真な暖かい心を取り戻すだろう。」

尺八でトロイメライを吹くというところに隠喩の可能性もありますが、そのまま素直に読んでも良いのではないでしょうか。
幼稚という言葉も今とは違って、不のイメージはなく、素朴、純朴の意味に見えるのですが。

徳田秋声は、若い頃には気に入っていくつか読んだのですが、今こうして見ると、気取りすぎていてつまらない。

投稿: ペリー | 2007年1月 3日 (水) 18時17分

前から思っていたのですが、mixi のプロフィールをぱらぱら見ると案の定、あの人もこの人もB型。
日本人の血液型でB型は二割のはずなんですが、尺八吹きには異常に多くないですか?
そして、細かい理屈をぐだぐだと書く情報マニア。
笑ってしまいました。当然わたしもB型。

Yatou さん、a を抜かしてしまって失礼しました。

投稿: ペリー | 2007年1月 3日 (水) 18時37分

「“尺八でのトロイメライの演奏”=幼稚」というのは,少々短絡だったかもしれません.私自身,チャングムのテーマ曲などを楽しく演奏していますので,異文化の衝突も面白いかもしれません.

ろめいさんの指摘で辻潤の詩のイメージが少しだけわかったような気がします.「サルダナパロス」が何なのか,慌てて調べました.

投稿: Yatou | 2007年1月 8日 (月) 23時30分

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